及川長編 そんなものさいいもんさ fin
GW明けの最初の月曜日。放課後、私と3年男子バレー部の面々は、帰り道にあるファミレスにいた。その状況は十分おかしいのだが、更におかしいところをあげるとするとそれは…3年男子バレー部の面々、その前に"徹以外の"が入るところだった。

いつも通り帰り支度をしていると、徹が先生に呼ばれて待つことを命じられた。ぶっちゃけ帰ってやろうと思ったのだがそこはムカつくぐらい頭がきれる徹らしく、たまたま廊下を通りがかった岩泉くん、花巻くん、松川くんに私の見張りを言いつけたのだ。
渋っていた岩泉くんと、傍観を決め込んでいる松川くんは別に、花巻くんはそれにノリノリだった。それがなぜか、私は知っている。水族館帰りの私と徹の姿を目撃したあの時のことを、根掘り葉掘り聞こうとしているのだろう。

うわぁ、めんどくさいことになった…そう思わざるを得ない状況の中、花巻くんは私に言ったのだ。

「名前ちゃん、及川置いて俺らと帰ろっか」


* * *


そんなこんなで冒頭のファミレスに戻る訳である。私の隣には岩泉くん。向かいには花巻くん、その隣に松川くん。それぞれがドリンクバーから調達してきたジュースを手に、たまに真ん中に置かれたポテトを口にしていた。

「…置いてきて平気だったかな」
「俺らもいないってなるとまぁアイツのことだから察するでしょ」
「絶対あとで面倒なことになるよ…」
「それには同意だ」

ついてきた私も私だが、花巻くんはもう少し気にして欲しい。置いて帰って一番うるさく言われるのは、絶対に私なのだ。それでもこの前出かけた以来の二人きりになることに多少緊張もしていたので、この状況に救われている面があるのも事実だ。

「苗字、この前及川とデートしてたんだって?」
「ま、松川くんまでどうして知ってるの…」
「俺も松川も花巻に聞いた」
「やっぱり…」

とりあえず、あのとき二人で出かけていた事実は3人とも共有済みらしい。私は、にんまり笑う花巻くんを無意識に睨み付けていた。

「でさ、俺らが聞きたいのはね、」
「おい、"俺ら"じゃねえだろ。気になってんのはお前だけだ」
「なんだかんだ言って岩泉も気になってるからここにいるんだろ」
「俺は苗字に同情してるだけだ」
「岩泉くん…!」
「はいはい。で、気になるのは!名前ちゃんってぶっちゃけ及川のこと、どう思ってんの?」
「強引だし子どもっぽいし性格悪いし、大嫌いなうんこ野郎だけど」
「清々しいくらいの即答にちょっと及川に同情するわ…」

私の返答にちょっと微妙そうな顔した花巻くんだけど、そんなことは知らない。だってこれは事実なのだから。

「でも苗字、休みの日にまでデートに付き合ったんだよね?」
「そ、それは徹が私といる理由を教えてくれるって言うから…」
「ふーん…徹、ね」
「な、なに」

なんにも、って意味深に笑う松川くん。その顔を見ると私は悪いことなんて何にもしてないし事実を言っているのに、なんだかいたたまれなくなる。

「で、あいつ、苗字といる理由ってやつ教えたのか?」
「いや、それが教えてくんなくって…騙されただけだった、っていうか」
「ふーん…あいつそういうところが女々しいよな」
「え、え!もしかして岩泉くん、何か知ってるの?」
「てか逆に名前ちゃんわかんねーの?」

笑いながら問われて、私は首を傾げるしかない。わからないものはわからない。逆にどうして三人はわかるのか不思議だった。あ、徹に聞いているのか。そうわかるとあのとき教えてもらえなかったことで落ち着いていた知りたい欲が、またむくむくと湧いてくる。

「ね、知ってるなら理由教えてよ」
「それはできないかなぁ」
「ええー、どうして?」
「俺らが及川に怒られっから」
「私だって徹の弱み握りたいの」
「名前ちゃん弱み握ってどうすんの?」
「え?えー…ぎゃふんと言わせる?」
「ぎゃふんって!!」
「まぁ、苗字が求めてる答えは俺ら言えないけど…ヒントならあげるよ」
「わ、さすが松川くん!教えて!」
「じゃあ俺らの試合、観においで」
「え…試合?」
「うん。そしたら今と考え方が変わって答えがわかるかも」
「松川は小難しい言い方しかしねーよな」
「い、岩泉くん通訳プリーズ」
「悪いけど俺もなんも言えねえ」

ええ…そんな。そうは言っても、私はこのチャンスを逃す訳にはいかないのだ。せめて更なるヒントを出してくれないか、とまた口を開きかけたときだった。

「マッキー、岩ちゃん、まっつん、名前ちゃーん。…こんなところで何してるの?」
「う、わ!!!!」

見つかった!

そこで私たちのテーブルを見下ろすのはもちろん徹。それはもう分かりやすく、笑ってるけど怒ってる。

「及川さん、待っててって言ったよねぇ?」
「は、花巻くんに連れてこられて!」
「は!?名前ちゃんそれはずるいんじゃないの?」
「マッキー…?」
「結局全員同意の元だったからな!」 

いつまでもワイワイ騒いでいると店員さんの目が痛いから、私たちはそのまま店を出ることになった。店を出ると、「じゃあ俺たちはここで!」なんて言って後の三人は先に帰っていく。ええ、置いて行かないで。
隣の徹を見上げると別に怒ってはいない…どちらかというと拗ねているような顔をしていて、これはこれで面倒臭い。

「教室戻って誰もいなかったとき、俺悲しかったんだからね」
「まぁたまにはいいじゃん」
「何話してたのさ?」
「えー…バレー部の試合、観に来ればって誘われたくらい?」
「え、そんなナイスな提案されてたの!」
「行くとは言ってないよ」
「来てよ!」

いきなりテンションが上がる徹には悪いが、行くつもりはない。例えそれが知りたいことのヒントだとしても、そう何度も休みの日を徹に費やす義理はないし。

「ねーお願い!」
「徹お願いばっかじゃん」
「だって来て欲しいもん!」
「あたしルールそこまでわかんないし」
「俺が頭の悪い名前ちゃんでもわかるようにルール教えてあげるからさぁ!」
「喧嘩売ってるよね?」

それでも楽しそうに隣を歩く徹は、本当にバレーのことが大好きなんだってことが伝わってくる。まぁ、予定が合えば行ってあげてもいいかな、なんて思ってしまうくらいには、そこについては認めざるを得ない。

「楽しみにしてるね!絶対来てね!」
「…気が向いたらね」


駄目元のシナリオ




ファミレスを出て、徹と花巻くんが少し話してる間に松川くんが教えてくれたこと。それも、ヒントだったりするのかな。

「苗字って及川と偽装カップルなんだよな?」
「え、そうだけど」
「でも俺らにも本当のカップルにしか見えないよ」
「え、なにその不名誉な情報!」



19.12.08.
- ナノ -