2nd anniversary
「て、鉄朗?」
「ん、?」
「なにっ、ぁ、」
「ふっ、かーわいー」
「やめ、擽ったい、よっ」
「えぇ?でもめちゃくちゃ可愛いからやめらんねぇな〜」
「んっ、飲み過ぎっ、た、でしょっ」
「うーん……かもしんね」
「離してってばぁ」
「一々反応すんのが可愛くて無理、まだ離してあげませーん」
「やぁっ、」

 ふぅ、と耳元で息を吹き掛けられて跳ねる身体。かと思えばそれをしっかりとホールドされて、顔を逸らしても追ってくる唇。熱い舌がぬるりと口内を犯して、くちゅくちゅと唾液と共に絡ませられれば簡単に力は抜けてしまう。

 同棲中の鉄朗に「今日は飲み会だから先に寝てていいよ」と朝言われていたものの、せめてお出迎えだけでもと起きて待っていればこの仕打ちだ。
 アルコールの匂いを存分に含ませて帰宅した鉄朗は、帰ってくるなり私に熱いキスをして、スーツのジャケットに皺がつくのも気にせず私をソファに押し倒した。

 はぁ、と酸素を取り込むべくやっと解放されれば、珍しく据わった瞳と視線が絡む。こんなに酔ってる鉄朗、初めて見るかも。先輩だか上司だかに必要以上に飲まされたのかな。いつもはそんなのだって飄々とかわすくせに、何かあったんだろうか。
 ……なんて思考を巡らせたところで、余計なことを考えるなとばかりにまた唇をぶつけられる。

 平熱以上の体温がパジャマの下に滑り込み、それにまたピクンと反応してしまうと鉄朗は嬉しそうに口角を上げ、「かわいー」なんてさっきから何度も発している単語を飽きもせず呟くのだ。

「もう、酔いすぎ、」
「肌すべすべ……風呂入った?」
「当たり前じゃん、何時だと思ってんの?」
「いい匂い」
「やっ、あ、そこで息吸わないでっ」
「やば、止まんなくなりそ」
「やだぁ、明日も朝早いってば、」
「んー……かわい、」
「それ、ばっか、ぁ」
「んー?」

 口付け一つで簡単に絆されるのが嫌で左に顔を逸らせばすぐに熱っぽい視線に絡め取られ、逃げるように右に逸らせば今度はちょっぴり意地悪な瞳が追いかけてくる。
 「は、うっ」「ふは、可愛いねぇ」ってとびきり蕩けた声で言われてしまえば今にもこの先を許してしまいそうで。

 ダメだってば、明日は本当に朝起きなきゃだし、会議があるから寝不足で行きたくないよ。そうやって言っても「んー、そうだよなぁ」って分かってるのか分かってないのか。

 抵抗も虚しくお腹あたりを撫でる手が、じくじくとお腹の奥に甘い痺れを感じさせる。

「ん、ばかぁ、」
「はは、ごめんネ。でもお前が可愛いのが悪い」
「そんな、いつもは言わないのに、酔いすぎ」
「んー?いつも言って欲しいって?」
「そんなこと言ってない……」
「じゃーお望み通りに今度からは思ったこと全部伝えるわ」
「なに、それぇ、あっ」
「はは、かわいー」

 お酒臭いって苦し紛れの悪態も、全然聞こえてないんだろうな。鉄朗って酔っ払ったらさらに意地悪になるのか。しかもいつもより何十倍も甘々になりながらなんて、タチが悪い。
 決死の抵抗も虚しくまた甘く口付けられて、耳元でキザな愛を囁かれて。私が諦めて鉄朗の首に手を回したのを合図に、鉄朗の喉が嬉しそうに鳴った。
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