宮治長編 I my darling!!

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「苗字名前ですよろしくお願いします!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「…おん。元気やな。マネージャー希望?」
「はい!! 中学では選手としてバレーしてました!!!」
「ほんならある程度ルールとか大丈夫やな。助かるわ」
「! ほんならマネージャーならせていただけるってことですか!!?!?」
「…これ面接ちゃうし別になられへんとかないんやけど」

 待ちに待った仮入期間。どうせ私はバレー部に入るつもりでしかないから、初日から入部届を持ってやって来た体育館。
 うわぁめっちゃ大人っぽい! この人が主将かな!?
 私の渾身の元気な挨拶にも淡々とした返ししかしてくれへん、やばい印象悪かったんかな? 運動部やのに声ちっちゃって思われたんかな!?

 心配しながらも、ちゃんと入部届は受け取ってくれたことに安心する。北信介、と名乗った主将さんの後ろで、角名先輩が笑っているのが見えた。…え、なんでスマホこっち向けられてんですか?

「なぁ、自分ちょい喧しいんやけど」
「! 宮先輩!?」
「あ?」
「宮先輩〜〜! 会いたかったです! 元気にしてはりました!? あれから全然会わなかったですよね寂しかったです…!」
「な、何この子…俺目当てなん? めっちゃウザいんやけど」
「えっ」
「俺目当てなら入らんといてや。邪魔でしかないから」
「えっ…え? 宮先輩…?」
「なんやねん」

 ずっとずっと会いたかった、目の前にいるのは正真正銘宮先輩。せやのにその雰囲気は私の知ってる宮先輩とはどこか違うくって、何が、とかハッキリ分からんけどなんか…ちょっと冷たくないですか!?
 この前初対面で話しかけた時でもこんなにドライじゃなかった。せやのにどうしちゃったん、宮先輩。私なんかした?

 思いがけない塩対応に少し声が小さくなるけど、それでもグッと拳を握ってめげずに話しかけるのはやっぱりこの日を心待ちにしていたから。

「あ、の…私、ちゃんとバレー好きで入って来てます!」
「…ほんまやろなぁ」
「はい! 宮先輩の邪魔になるようなことしません! マネとしてちゃんとサポート出来る様に頑張ります!」
「…そんなら別に、ええけど…」
「! 宮先輩! やっぱ好きやー!」
「ほらそういうとこ! 信じられへんねん!!!」
「えー!? そんなこと言わんでください!」

 宮先輩がちょっと認めてくれたんが嬉しくって、また前みたいに引っ付きに行ったら宮先輩のおっきい手が私の頭を掴んで、長い腕分それ以上近付かれへん。
 でもこのやりとりですらもめちゃくちゃ嬉しいのん、先輩知ってる?絶対知らんやろうな。

 すると今度はそんな私の後ろ、またたっかい位置から私の胸をキュンキュンさせる声が落っこちて来た。

「なにしてんねん」
「!」

 最早それは条件反射。宮先輩の手すらも振り切って勢い良く振り返れば、そこには宮先ぱ………え?

「なっ………」
「うわ…ほんまに来たんや」
「なななな、な、なな、なんで! 宮先輩が二人おる!」
「…はぁ?」
「ドッペルゲンガーやぁあああ!」

 目の前に現れたもう一人の宮先輩に、私の脳の処理速度は完全に追いついてこおへんくって私は思わず叫んでしまう。え、え、ええ!? 宮先輩! こっちにも宮先輩! あっちにも宮先輩! どっちが本物の宮先輩!?
 後ろにいはるさっきまで話してた宮先輩と、今現れたばっかりの宮先輩を何度も何度も見比べて、完全に私はパニック状態。もう宮先輩がゲシュタルト崩壊してる。てか、え、どっちもカッコええんやけど!?

「なんやこの子サムの知り合い?」
「さむ…?」
「いや知らん」
「ええっ!?」
「俺も知らんねんけど」
「ええー…」

 私の頭の上で会話する二人の宮先輩に目を白黒させていると、さっきからずっと笑ってる角名先輩が相変わらずスマホをこちらに向けながら助け舟を出してくれた。

「苗字ちゃん、それ、双子だよ」
「えっ!? 角名先輩!双子!?」
「いや俺じゃなくてそっちね。宮侑と宮治。まさか知らないと思わなくて」
「宮侑先輩と…宮治先輩…」
「ちなみに苗字ちゃんがこの前会ったのは後から来た方、宮治ね」
「治先輩!」

 角名先輩が指差した治先輩を見上げれば、心底面倒臭いといった表情をされる。それでもさっき侑先輩にしたみたいに「会いたかったです! 会えなさすぎて死んじゃうかと思いました!」と言えば少し眉を下げて「だからお前は大袈裟やねん」と返してくれた。

「なんやぁ? サムの女か? いつのまに彼女できたん自分」
「彼女ちゃうわ」
「じゃあなんでこんな懐かれとん」
「知らん、この前ちょっと喋っただけやし」
「ほぉーん…まぁ邪魔せえへんなら何でもええけど」
「いつまで喋ってるんや」
「! 北さん!」
「治も来たんやったらはよ着替えてきぃ。今日から一年おるで」
「はい! すんません!」
「苗字は他の奴がマネージャーの仕事教えるからちょお待っとって」
「はい!」

 しばらく治先輩と侑先輩に挟まれてそのやりとりを見守っていると、お二人は後ろからやって来た北先輩に同時にびくりと肩を揺らした。…すごい、一瞬で纏めてもうた。もしかして北先輩ってめっちゃ怖いんやろか。

 治先輩に会えて嬉しいのは勿論やけど、でもそれを抜きにしてもバレー部を楽しみにして来たのは本当。せやから私も改めて気合を入れ、今までマネがおらんかったからと代わりにマネ業もやってはったらしい二年の先輩に仕事を教わった。

 仕事を教わって、たまに見る試合形式でゲームしているときはその迫力に感動して…夢中になりすぎて部活一日目はあっという間に終わってしもうた感じ。

「苗字ももう着替えてきいや」
「あ、はい…まだ残ってる方は?」
「アイツらは自主練しよんねん。終わんの待ってたら遅なるから先帰ってええで」
「え、っと…見ていっても邪魔ちゃいますか?」
「ええけど……ふっ…」
「?」
「ほんまにバレー好きなんやなぁ」

 北先輩は小さく笑い、「球飛んでくんのだけ気ぃつけな」とだけ言って戻っていった。…北先輩も自主練しはるんや。みんな頑張ってんなぁ。さすが高校生、さすが強豪!
 そん中でも一際目を引くんは、やっぱり宮先輩達で。

「さっきのもう一回やるでサム!」
「ええけど次はもうちょい高く頼むわ」
「分かっとるわ!」

 侑先輩の綺麗なセットアップを、治先輩が力強く打つ。ただそれだけの動きがもうほんまめっちゃくちゃ凄くて、何が凄いかって言われてもとにかく凄いとしか言われへんぐらい凄くて…正直中学の頃の男バレとも全然レベルが違う。それにあのハーフの先輩も、角名先輩も…みぃんなそれぞれ見惚れてしまう魅力があるように思えた。

 ただただ夢中になって先輩たちの練習を眺め、気づけば流石に外ももう真っ暗。漸く練習を終えた皆さんが片付け始めたので私もそれに混じって手伝った。

「なぁ自分」
「? あ、はい!」
「サムのこと好きなん? なんで?」
「す、好きです! 一目惚れです!」
「一目惚れぇ?」
「はい! 入学式の日に、…」

 いきなり話しかけられて驚くも、怪訝な顔をした侑先輩に治先輩と初めて会った日のことを話せば先輩は益々眉間に皺を寄せて首を傾げた。

「…それ一目惚れするとしても普通角名ちゃう?」
「あ、や、角名先輩はあんまり視界に入ってなかったです…」
「ぶっ…! あっはっはっは! なんそれ、角名かわいそぉ!」
「そうだよね。俺めっちゃ不憫」
「! 角名先輩!」
「やばいな自分、オモロいやん!」

 後ろから現れた角名先輩を見上げれば、侑先輩には頭をガシガシと撫でられる。最初はなんか敵意感じてたけど、良かった、認めてもらえた…かな? 撫でるって言うか髪の毛グッシャグシャやけど…

「良かったなぁサム、こーんな子に好きなってもらえて!」
「…別に何も良くないわ」
「えー! そんなこと言わんでください治先輩!」
「せやでサム! 名前ちゃんが可哀想や!」
「…なんでいきなし名前で呼んどん」
「えー? だって名前ちゃんやろ? なぁ?」
「は、はい」
「ほらサムも呼んだりぃや。名前ちゃん喜ぶで」
「!」

 侑先輩の言葉通り、治先輩に名前で呼ばれたらめっちゃ嬉しい。前に不意打ちで名字を呼んでもらえたときも嬉しかったけど、多分そんなんとは比べもんにならん。それだけできっと一生分の幸せを感じてしまう気がする。侑先輩、ナイス!
 期待の目を治先輩に向ければ、治先輩は心底面倒臭そうな顔でこう言った。

「…呼ばんぞ」
「えー! 遠慮せずに! さぁ!」
「呼ばん言うたら呼ばん。おいツム」
「あ?」
「お前も呼ぶな」
「え? なんで?」
「なんでもや!」

 治先輩はそう言って、さっさと自分だけ行ってしまわれた。残された私と侑先輩、角名先輩はポカンとその後ろ姿を見ながら一瞬沈黙し、そして。

「…え、なんで?」

 角名先輩の呟きに、きっと私も侑先輩も同じことを思っていたと思う。だけど、それに返事が返って来ることはなかった。

ゆるやかな一撃を


21.01.27.

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