宮治長編 I my darling!!

/ / / /


「はぁ、治先輩好き……大好きですう…」
『……俺も好きやで、苗字ちゃん』
「えっ!? う、うう、なんですかなんですか! なんで電話やったらそんな簡単に……いやでもやっぱ嬉しっ」
『せやからはよ寝えや』
「だ、ダメですそれは……! 私が一番最初に治先輩の誕生日をお祝いするんですー!」
『ふは、』

 電話越し、耳元ゼロ距離で囁かれる愛の言葉にノックアウト。治先輩の後ろから「うっわサムきも!」って声が聞こえたんは多分侑先輩。キモくないです侑先輩、治先輩はいつでもかっこいいんですよー!

 治先輩の誕生日まで、あと十数分。なんとしても一番にお祝いしたいのにどうしても眠気に襲われて仕方なかった私は、ほとんど勢いで治先輩に電話をかけた。こんな夜遅くに私ってば……ダイターン!
 でもまさか、ほんまに、すぐに、治先輩が出てくれるとは思わんくて。や、ちょっとは期待してましたけど。うそ、結構期待してましたけどっ。
 前に電話した時はなんか心配されたから、あれから一度も押すことがなかった治先輩の電話番号。勢いがなかったら緊張するに決まってる! やのに。
 
『……どしたん』

 って、第一声から私をずっきゅんしちゃった先輩。だってなんかいつもよりちょこっと声低いし、掠れてるし! 控えめに言ってえっちですありがとうございます!

「お、おしゃむせんぱぁい……」

 初手から治先輩の色気に充てられてへにょんへにょんになった私に、「むっちゃ眠そうやん」って笑ってくれたのも愛。今のはそれだけちゃうけど、でもなんで私が眠いの分かるんですか……
 治先輩は、私が先輩の誕生日を本人以上に楽しみにしてることを知ってる。やからその後も切らずにどうでもいい会話に付き合ってくれはって、しかもなんかいつも以上に優しいし会話めっちゃカップル感あるしあれ、もしかして私らベストカップル賞受賞出来るんちゃいます!? ノミネートされちゃったんちゃいます!?

 そうこうしてる間にも日付が変わるまで後一分。
 私が意気揚々とカウントダウンを始めたら、治先輩は「いや早いわ」って呆れたように笑う。

「三、二、一……治先輩、お誕生日おめでとうございまーす!」
『おん、ありがとぉ』
『名前ちゃん名前ちゃん、俺もっ! 俺も誕生日やで!』
「あ、侑先輩もおめでとうございます!」
『なんでお前出てくんねんっ! はよ寝ろや!』
『なんでやねん、名前ちゃんはサムのもんだけちゃうぞ、俺らのマネージャーやねんからええやろ!」
『うっさい俺の彼女じゃ!』
「ひえっ……」

 な、なん……今の。ちーん。苗字名前、嬉し死。

 実際に目の前にはおらんからか、治先輩から軽率に飛び出す嬉しい言葉に私は胸を押さえ行き絶え絶え。なんか今日は治先輩からのサービスが凄いんですけど!?
 今日は先輩の誕生日やのに、私の方が喜んどってどないすんのー!?

 その後も電話の向こうではいつもの喧嘩が続いとって、

「お、治先輩……?」

 呼びかけた向こうで『あーもうっ!ごめん苗字ちゃん』って声にまたキュン。うう、大好きです治先輩。
 ほんまにはよ寝な明日、ってかもう今日起きられヘんくなりそう。そう言い合って一言、二言交わしてる間もずっとふわふわ。
 「おやすみ」って電話を切り、すっかり冷たくなった枕にダイブするまで(緊張してベッドの上で正座してたら足痺れたっ)全然現実味もないしほんまに夢かもって思ったくらい。

 やけどスマホの着信履歴にはしっかり治先輩の名前がある、夢じゃない。
 これは楽しみすぎて寝られへんかも。ちょっとだけ心配した数分後には、私はすっかり夢の世界へ旅立っていた。


* * *


「おはようございますお誕生日おめでとうございます、治先輩!」
「ありがと……それなに?」
「本日の主役たすき、私の手作りです! どうぞ!」
「いやいらんし」
「ええっ!? せっかく作ったのに!」
「……そういうんはツムの方が喜ぶんちゃう」
「何言ってるんですか!? 私は治先輩の彼女です!」
「声でかいねん」

 きゃっ、ボディータッチ!
 控えめに入ったツッコみに思わず笑みを零すと、「なにわろてんねん」と更にチョップを入れられる。
 せやけど周りからクスクスと笑い声が聞こえて、それが恥ずかしくなったんか治先輩は慌てて私の手を引いてその場を離れるから。

 やっばい……にやける。中々良い滑り出しちゃう、今日? 大成功の予感しかせんくない?
 めちゃくちゃ気合を入れて挑む、大好きな人の誕生日。私は既に手応えを感じ、繋いだ手にも更に力が入る。

「んで、どこ行くん?」
「えっと、今日は中央公園でラーメンフェスがあるらしくて、」
「! 前に銀と言うとったやつ!」
「実は盗み聞きしてました……!」
「行きたかってん!」
「だと思って……今日はお腹いっぱい食べてください!」
「わ、うそ、嬉し、」

 治先輩の表情がふにゃっと崩れる。か、かかか可愛いっ!
 誕生日にラーメン? って思ったけど、でも今日の目的は治先輩に喜んでもらうこと。この前治先輩から言われた『俺らのデートはこれでいい』が一番私を後押ししてくれた。
 でもまぁ、角名先輩にも一応確認したけど「治だったらそれめちゃくちゃ良いんじゃない?」ってGOも出たので安心!

 事前に購入してた入場券を取り出して治先輩に見えるようにかざすと、更に治先輩の目はキラキラと輝き出す。
 治先輩が喜んでくれたら私も嬉しい!

「はよ行こ、名前ちゃん」
「わっ、治先輩っ」
「急がなラーメンなくなる!」
「だ、大丈夫ですよっ」

 とか言いながら、私も治先輩に引き摺られるようにして小走りに。
 会場になってる公園に着くと、入り口からもう良い香り。絶対これ美味しい! ってスープの味が、口ん中で想像出来てしまう。

「美味い匂いする……」
「ほんと……! 治先輩、まずどこ行きますか!?」
「さっき貰ったパンフレット、こっから全部回ろ」
「全部!?」

 確かにこういうとこのラーメンは普通に店で食べるやつより量はなさそうやけど……そんでも私は二杯……頑張っても三杯しか食べれんと思うんですけど。
 早速一杯目のブースにやって来た私たちは、お目当てのラーメンを貰って、近くに設置されてた簡易的なテーブルに座る。

「いただきます」
「いただきますっ」

 はぁ、美味しそう。治先輩も嬉しそうで、にこにこするそのお顔はどうしても写真に撮りたい……!
 欲望には勿論勝てずスマホを掲げる私に治先輩も気付いて、うわ怒られるかも!? って身構えた身体。
 せやけど治先輩はすっと両手を胸の辺りまで上げてピースサインを作ってくれて、え、まさかのファンサービス……!?

「わ、わわ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「……もう食って良い?」
「ハッ! お待たせしました、どうぞ召し上がれ!?」
「ぶっ……なんそれ、苗字ちゃんも食べや」

 ひゃーーーんっ! 治先輩がずるずる麺啜ってる、咀嚼してる、飲み込んだ瞬間からめっちゃ幸せそうな顔してる〜〜!
 未だかつてこんなに美味しそうにラーメン食べはる人おる!? ってくらい、治先輩のこれはCMも出れるレベル!

「うっま」
「ふぐっ……私もめちゃくちゃ美味しいです……」
「苗字ちゃんまだ食うてへんやん」
「食べんでも美味しいんです……」
「?」
「な、なんもないですっ! 私も食べます!」

 ほんまに今日はやばい。だってなんかずっと治先輩が可愛い! いつもはカッコいいが大部分を占めてはるけど今日は可愛い全開!
 誰かから聞いた、好きな人を可愛いと思ったらもうそれは"沼"やって……こんなんめちゃくちゃ沼やん……治先輩、むっちゃ可愛いやん……

 アカン、落ち着こ私!? 初めてのデートの破壊力やばすぎてずっと頭ふわふわしとるもん、やばいって!!!

 治先輩は早々に食べ終わって、パンフレットを見てはる。やばいっ。早よ食べな、治先輩次のん食べたいですよねごめんなさい……!
 そしたらここで。治先輩が、治先輩が!
 ペースアップした私に気付いたんか、私の頭にポンって手を乗せて、「急がんでええからゆっくり食い」って……笑ってはる……!?
 こんなん私にはまたまた衝撃。治先輩今日めっちゃ優しい、可愛いし優しいしかっこいい、これが十七歳になった治先輩……?

 治先輩の誕生日、前半戦。まだまだ先は長いって言うのに私はもうとっくにずっと瀕死の重体だ。


どんなショーをご所望?



2023.01.05.

- ナノ -