宮治長編 I my darling!!

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「先輩ってカッコいいですよね!」
「また言ってんの」
「やっぱ一年の女子の間でも人気だし!」
「まぁどこ行っても目立つしね」
「かっこよくて、運動も出来て、しかも手先も器用!」
「そうなの?」
「そんな角名先輩にお願いがあります!」
「え、今の全部俺の話?」

 部活前。治先輩は委員会があるとかなんとかでまだ姿は見えんくて、そんな滅多にないチャンスを使って私は角名先輩に相談しようとしていた。
 私が誰の話をしてる思てたんか、こちらを見向きもせずにスマホをいじっていた角名先輩が漸く顔を上げる。その瞳に映った恋する乙女・自分を見つめながら、私の渾身のお願いはこうだ!

「私にデートを教えて欲しいんです!!!」
「……は?」

 あ。繰り出されたのは角名先輩渾身の嫌な顔。だけど私はこんなことでめげたりしない。というかむしろこれくらい想定内です!

「だからっ! 角名先輩って何でも出来はるやないですか!」
「いやそうでもないけど」
「かっこよくて、運動も出来て、手先も器用で!」
「つかそれ関係ないじゃん」
「デートもなんべんもしたことあるやろ思て!」
「いつにも増して言ってることが無茶苦茶なんだけど」
「せやから! 私とデートして欲しいんです!」
「…………はぁ?」
「私と! デート! してください!」
「やだ」
「やったぁああありがとうございま……………え!? な、なんで!? なんでですか角名先輩! なんで!?!?」
「うるっさ……」

 いやいやいや角名先輩イヤホン付けんでください! もうすぐ部活始まりますよ!!
 そう言うと渋々取り出したイヤホンはしまうけど、その顔はしっかりはっきり拒否の色を示している。

 ええーーーなんで!? ほんまになんで!? 今までなんやかんや言うて相談に乗ったり助けてくれはった角名先輩、今回も渋々やったとしても頷いてくれると思ったのに。

「治とすればいいじゃん」
「治先輩とは今度するんです! 10月5日……そう、治先輩のお誕生デートです! 聞いてくださいよ、実は私まだ治先輩とデートしたことないんですけどやっぱ部活も忙しいじゃないですか! でもお誕生日は絶対何かしたいですって言ったらなんと治先輩の方から! じゃあその日出かけるかって言ってくれはって、」
「じゃあデート出来るじゃん、その日までとっときなよ」
「それじゃダメなんです!」
「なんで……」
「私は生まれてこの方、デートというものをしたことがありません!」
「だからなんだよ」

 だって中学の時は私も部活まっしぐらな生活をしていたし、そもそもモテるタイプでもないし、付き合ったとか告白されたとかそういう話に入っていける人間でもなかったんです!
 だから別にどうとか今までは思っていなかったし、今はあんなにイケメンな彼氏様がいるのだから何にも気にする必要はない……と思っていたのに!
 ここに来て気付いてしまったのだ。治先輩と、ってだけじゃない。私の人生においての初デート。それが治先輩がこの世に生を受けた日だなんて、ちょっといやかなり私にとっては荷が重すぎでは!?
 あっ夏祭りもデートはしましたけどあれはノーカンです! あれもまぎれもないデートでしたけど付き合う前だったし!

 と、ここまで一息。角名先輩のどーーーでも良さそうな表情にちょっとだけめげそうになるけど、ううんこんなとこでめげちゃダメ! 名前、目的を思い出すのよ!

「治先輩の誕生日プレゼント、一緒に選んで欲しいんですよ!」
「そんなの治に聞けばいいじゃん」
「出来ればサプライズしたいです! あと普通にデート中に治先輩を悩殺できるテクとかあれば教えて欲しいです!」
「苗字ちゃんそういうの向いてなさそう」
「だから角名先輩のお力添えを!」
「侑に聞けば?」
「侑先輩は逆に治先輩の喜ばないもの教えてくれそうじゃないですかぁ!」
「……銀は?」
「銀島先輩は……まぁ、はい! 角名先輩の方がこういうの慣れてはりそうやなって!」
「え? 今銀のこともディスってる?」
「めめめ滅相もございません!」

 ただやっぱり角名先輩は治先輩とクラスも一緒やし!? あとなんか……雰囲気がオシャレやし!? 初デートや言うても治先輩の誕生日、私が率先してお店とか行く先決めたいじゃないですかー! そのためには先輩の力が必要じゃないですか!!

「あーもう分かった分かった……」
「えっ! ほんまですか!」
「次の日曜10時に駅前ね、ほら早くしないと治来るよ」
「! ありがとうございます角名先輩大好きですー!」
「治来るよ」
「はい!」

 私の必死のお願いに折れてくれたのか、やっぱりなんやかんや言って助けてくれるから角名先輩ってば優しい。
 侑先輩も銀島先輩も勿論優しいんやけど、なんていうかうーん……一番相談しやすい! ありがとうございます角名先輩一生着いていきます!!

 そろそろ北先輩の目も怖くなってきたから私はるんるんで体育館倉庫に向かう。
 右も左も前も後ろも分からないデートの練習が出来ることに安堵し、それから治先輩のめちゃくちゃに喜ぶプレゼントを探す強力な助っ人を確保できた。

 これで当日初めてのデートも安心やし、練習の成果を発揮した私の素晴らしいデートプランに治先輩感動しちゃったりして!!
 「苗字ちゃんすごいやん」って褒めてもらえたりして!?
 そんでそんで、私からの誕生日プレゼントに感動した治先輩が「俺はめちゃくちゃ可愛くて良い彼女持ったなぁ」とか言っちゃったりして……ゆっくりと迫る治先輩の顔、察した私はピンクの頬にキラキラアイシャドウの瞼を閉じて、それからその日までにぷるっぷるになるようケアした唇にお治先輩のラブ・キッスでフィニッシュ……!

 前にした時はドキドキしすぎて夢みたいで、あんまり覚えてへん……いややっぱりしっかりめちゃくちゃ覚えてますけど! でも余裕はゼロで治先輩にしがみつくのが必死やったから、今回こそはもっと準備万端のちゅーがしたい。
 っていうか思い出したら……きゃーーー! えっち! あのときの治先輩はえっちでした!

 目標はあのときを超えるちゅーをすること! 超えるってなにってツッコミはなしな方向で!
 そのために角名先輩、お願いしますよー!!! って向こうの角名先輩にウインクした私から、角名先輩は無言で顔を背けはったけど。

 けど。約束、ちゃんとしましたよね……?


* * *


「お、治先輩……?」
「およ、早いやん。流石マネージャー」
「治先輩!?!?」
「うん、なに?」
「な、なんで治先輩がこんなとこに……」

 もしかして治先輩も用事でこのへんに……?
 うっそそんな偶然ありますか!? もしかして私たち運命の赤い糸的なアレで繋がってるから引き寄せられちゃうんですか!?!?
 とかなんとか言ってる場合じゃない。急いで角名先輩に場所変更のメッセージを飛ばさないとこの計画がパァに……

「苗字ちゃん」
「は、はい?」
「とりあえずなんで角名とデートつもりやったか、聞かせてもらおか」
「え」
「なんで角名とデートするつもりやったか。日曜10時にここで約束、しとったんやろ?」
「え、え……」
「聞かせてもらおか」
「な、……」

 んで。なんで知ってはるんですか治先輩!!! エスパー!? どういうことですか角名先輩!?
 どんなに心の中でそう問いただしても、目の前には治先輩しかいてはらへん。ていうか治先輩、怒ってる……?

「答えようによっちゃ俺むっちゃキレんで」

 怒ってる! もう怒ってますめちゃくちゃキレてます治先輩!!
 まだまだ暑いこの季節、その中で冷や汗だらだらの私がない頭を使ても治先輩を誤魔化せるような上手い言い訳を思いつくはずもなく。

「……」
「ほら苗字ちゃん、聞かせてえや、な?」

 治先輩のわざとらしい猫撫で声も、優しい言い方も、目が笑ってない笑顔も、……全部怖い!

「ご、ごめんなさいぃいい……!」

 そんな私はとりあえず、泣きそうになりながら謝るしかなかった。


小さじ一杯で広がる疑惑



22.06.25

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