宮治長編 I my darling!!

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「治先輩!!!」
「うっさ……」
「治、先輩!!!!」
「なんなん」
「私、治先輩のこと好きです!!!!!」
「知っとる知っとる昨日も聞いた、ほら次、試合形式やからスコアつけてや」
「あ、はい!」

 言い残して去っていく先輩に、私は力強く頷く。あぁやっぱり治先輩かっこいい! 好き! ラブ! ビッグラブ!

「ビッグラブ! じゃないでしょ」
「!? 角名先輩! 私の心読みました!?」
「ダダ漏れだしめちゃめちゃ流されてるしそもそも部活中に言うもんじゃないから」
「えっ!? で、でもバレーしとる治先輩はいつにも増して魅力が溢れ出とって私の気持ちもそれに比例して抑えきれんくなってまうんで、それはもう」
「真面目に言ってんだけど」
「うす」

 なんて思ったより地を這うような角名先輩の声に私は思わず敬礼してもうたけど、別に私はふざけてるわけちゃうんです。いつでも真面目なんです。

 治先輩に告白、しようと決心してから早一週間ちょっと。夏休みは終わり、二学期が始まった学校のせいで丸一日治先輩とおれる楽園は終わってもうたけど、まぁでも結局毎日放課後は会えるもんな! 今までとなんら変わらへん!

 告白って言ってもどうしたらええか分からへんくて、だってよう考えたら私は常に治先輩に気持ちを伝え続けてる。それを改めて言うって、どうやって? 手紙? それともベタに屋上に呼び出すとか? 帰りに誘ってみてその時に言う? どれもしっくりこおへん。っていうか改めて言うんってやっぱり恥ずかしい!

 告白って! 告白ってどうしたらいいんですかーーーーーー!!??!!??

 聞きたいけど目の前におる先輩はむっちゃ怖い顔しとって……そんな顔せんでもええやないですか角名先輩!焚き付けたんやから最後まで面倒見てくださいヨォ……!

「……まぁいきなりはハードルが高いか」
「そうです! 高い! 富士山より高いです!」
「じゃあ練習してみたら? 侑あたりで」
「えぇー……侑先輩はちょっと……無理ですね……」
「……侑が聞いとったらめっちゃ喚きそうな台詞やなそれは……」
「銀島先輩……だって! あのお顔! 侑先輩と治先輩は双子ですよ!? あんなん治先輩ちゃうって分かっててもなんか……その、」
「?」
「……照れちゃいます」
「苗字ちゃんの照れポイント全然分からんわ」

 苦笑いしてる銀島先輩に、私はえぇ、と短く息を吐いた。頭に侑先輩を思い浮かべで私が告白するんを想像してみるけど……ううんやっぱ無理! しかもなんか治先輩に罪悪感! なんでかわからんけど!!

 ほんでも練習してみたらっていう角名先輩の案自体はいいかもしれへん。家にあるお気に入りのクマのぬいぐるみとか、あとさっちゃんとかにも協力してもろて……

「じゃあ銀は?」
「へ?」
「え?」

 角名先輩の言葉に、私と銀島先輩はおんなじ顔で固まった。
 ちょうどそこでピピーッとホイッスルが鳴って試合形式の練習が始まってもうたから、この話は一旦置いとくことになってもうたけど。


* * *


「す、角名先輩……ほんまにやるんですか?」
「せっかく銀に残ってもらったのにいいの? こんなチャンスもうないよ?」
「で、でも……」

 場面は変わって部活も終わった部室前。角名先輩のさっきの提案、"銀島先輩で告白の練習をする"って話はしっかりカッチリがっつり生きてたらしい。
 侑先輩も治先輩も今日は晩ご飯が焼肉やからとかで足早に帰って行きはって、他の部員もほとんど帰って人がおらんこの場所、私の声だけがやけに響いて聞こえる。

 私の目の前には相変わらず苦笑いしてる銀島先輩がおって、角名先輩はと言えばスマホを掲げていつでも録画準備OK! って何で録ろうとしてはるんですか!!?

「いやだって面白そうだし」
「角名先輩こういうのしはるキャラちゃいますよね!? いつもの脱力無気力無愛想キャラはどこにフライアウェイしはったんですか!?」
「言いすぎじゃね?」
「だって! だってこういうの、興味ないですよね、角名先輩!」
「まぁ苗字ちゃんがさっさと治とくっつくことで助かる命もあるんだよ」
「なんですかそれ!? 私と治先輩がくっつくってそんな! そんなそんな! 気が早いですよう角名先輩!」
「何想像してんの?」

 そうか! よう分からんけど先輩がなんかノリノリなんやってことはわかった! 角名先輩に似合わずノリノリ! もう! お茶目さんですね角名先輩は!
 なんてふざけてみても、私が銀島先輩相手に告白の練習をせなあかん状況に変わりはなくて、いやでも……ううん………

 練習は、したい。めっちゃ。でもなんかやっぱりこれめっちゃ恥ずかしい!!! 治先輩やからとか侑先輩やからとか関係なかった! 誰が相手でも恥ずかしいもんは恥ずかしいですごめんなさい!!!
 そう言ったところで多分「だから練習するんでしょ」とか言われるんがオチなんは分かってるから、考える。

「まぁ苗字ちゃんも無理せんと……」
「や、やっぱりお願いしてもええですか! 銀島先輩!」
「お、おぉん……おれは別にええけど……」

 女は度胸! さくっとやって、さくっと慣れて、さくっと治先輩とくっつく!! よっし完璧!!!
 グッと拳を握った私に銀島先輩も戸惑い気味やけど頷いてくれはった。

 北先輩ちゃうけど、先輩のお時間を頂戴してるんやから"ちゃんとやる"!!!
 ってことで、なぜか角名先輩から指示されてこの場には銀島先輩だけ、角名先輩は離れた位置でスマホをこっちに向けながら(ほんまに何で?)見守ってはって、私は逆側の離れた位置から来る設定らしい。

 位置について、スゥッと深呼吸。さっきの場所におる銀島先輩を確認して、私はキュッと唇を引き結んだ。よし! ちゃんとやる!!
 私はゆっくりと足を運んで銀島先輩の位置まで小走りで近付いた。

「す、すみません先輩……お待たせしました、」
「あ、や、ううん、おれも今来たとこやから……」

 これは私が治先輩を呼び出した設定らしい。うん、それっぽい。角名先輩の指示やし、角名先輩の言う通りにやってればもう何でも上手くいきそうな気がする!
 そう思ったら気分も上がってきて、私の脳内はほんまに治先輩に告白するモード。今までの想いを、ありったけの気持ちを、伝える。

 地面に伏せとった視線をゆっくり上げて、私は治先輩……役の銀島先輩を見つめた。目の前におるのは治先輩。治先輩、治先輩……

「あ、……」

 う。銀島先輩? あれ?治先輩? どうしよう。なんて言うんやっけ。あれ?
 さっきまでなんて言うかもバッチリやったはずやのに、銀島先輩と視線が絡んだ瞬間頭が真っ白になってしまう。うそ。え、なに? どうしよ?

 なんも言葉が出てこおへんくなって、息が苦しい。そんで熱い。ドクン、ドクンって胸が鳴って、なんでか分からへんけどじわりと涙が滲む。

「! え、ちょお、苗字ちゃん、」
「治先輩、……」
「え、……」

 好き。好きです。治先輩が好き。毎日毎日伝えられてると思っとったけど、やっぱり全然伝わってへんかった、伝えきれてへんかったかもしれへん。だってこうやってちゃんと伝えようとするだけでこんなに胸が痛くなる。
 治先輩。治先輩、治先輩、治先輩。

「す、好きです……」
「、」
「誰よりも、好きなんです……」
「苗字ちゃん、」

 目を見て、この気持ちがちゃんと伝われって痛いくらいに自分の手をギュッと握り込んで。
 この半年にあった色んなことを思い出す。治先輩と初めて会った日のこと。屋上でお昼を食べたこと。GW合宿のこと。部活でのこと。インターハイのこと。

「そ、その……もし良かったら、私と……」
「なんしとん」

「え」
「え?」
「やべっ」

 最高潮に気持ちが昂って、もうこれは練習やとか、目の前におるんはほんまは銀島先輩やとか、そんなん関係なく想いが溢れ出して。
 せやけどこんなん、誰が想像してたやろ。こんな、まさか……絶対に見られたらあかんとこ、当の治先輩本人に見られてまうなんて。

「治、先輩……?」

 背後から声をかけられて、勢いのまま振り向いた私はその場で思考が停止した。


願ってもない世紀末



21.09.27.

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