2020'sXmas短編集 fin

  


男女の幼馴染で大きくなってもずっと仲良くしているのなんて、割と珍しいことだと思う。いくら学校もずっとおんなじで、小さい頃は毎日一緒に遊んだり昼寝をして、両方の親に将来結婚させたいだなんて冗談を言われていたとしても、思春期を迎えるころには疎遠になるのが普通だ。だけど私と衛輔はそんな普通の男女の幼馴染とは違い、高校三年生になった今でもお互いの部屋を平気で行き来するくらいの関係を続けていた。

「もうすぐクリスマスだな」
「そうだねぇ」
「今年の欲しいもん決まったの?」
「うーん…まだはっきりとは」
「へぇ、いつもとっくに決まってるのに」
「いっぱいあって決めきれないの」

小さい頃、他の多くの家と同じくうちにもサンタさんが来ていた。朝起きたら枕元に置かれているプレゼントにいつも胸を弾ませたクリスマス。そのプレゼントを届けるサンタさんが、実は親だったことを友達から聞かされたのは小学校の低学年だったと思う。
それまでサンタさんは本当にいると信じていたのに、友達の前でその話をしたら「お前まだそんなの信じてんの?」だなんて揶揄われて。泣いて帰った私に事情を聞いた衛輔は、私にこう言った。

「サンタさんは本当にいるぞ」
「…でも、まーくんがいないって」
「あーあ、そんなこと言ったらアイツの家にはもうサンタ来ないのにな」
「え!?」
「信じてるやつのところにしかサンタは来ないんだよ」
「そうなの!?」
「おう。だから、名前のところには今年も来るぞ」
「そっかぁ…良かったぁ!」

心底安心した。そして、その年からお願いしたプレゼントとは別に、もう一つプレゼントが届くようになった。

程なくして、サンタさんの正体が自分の両親だったと流石に受け入れたけど、不思議と悲しくはなかった。お父さんとお母さんが用意してくれるプレゼントとは別にもう一つ、可愛いお菓子のセットだったり髪留めだったりの送り主は衛輔だということも知ったから。お母さんが、内緒ね、って言って教えてくれた事実。嬉しかった。サンタなんていないと揶揄われたあの日から、衛輔が私のサンタさんになってくれたのだ。
…そして今も、それは変わらずに続いている。

中学生になった頃から、衛輔からのプレゼントはちゃんと私の欲しいものになった。多分お小遣いが増えて、それなりのものを買えるようになったんだと思う。だからと言って、そんなに高いものは頼まない。流石に私もそれくらいの気遣いは出来る。
衛輔は嘘が下手だから、いつも真正面から欲しいものを聞いてくる。それに私は、紙に欲しいものを書いて「じゃあこれ、サンタさんに渡しといてね」と衛輔に渡すのだ。
高校生にもなって、って思われるかもしれないけど、お互いにもう分かりきっている一年に一回のイベントが私は好きだった。

「…じゃあ、今年はあれにしようかなぁ」
「おっ決まった?」
「うん」
「じゃあサンタに渡しとくから、紙に書いといて」
「…うん」

私はいつも持ち歩いているお気に入りのレターセットから一枚便箋を取り出し、その真ん中に小さくその名前を書いた。

「…ここで見ないでよ」
「わかってるよ。俺じゃなくて見んのはサンタだからな」
「…そうだよね」

折りたたんだそれを、衛輔に渡す。衛輔はそれをポケットに入れて、いつも通りに笑った。


* * *

クリスマスの日、私はうんと遅くに家に帰った。終業式だったから、学校は昼で終わったけれどどのまま友達とご飯を食べて、カラオケに行って、お茶までして帰ってきた。何となく、家に帰りたくない。胸が変にざわざわとしていた。

今日朝起きても、私の枕元にはなにもなかった。…当たり前か。今年お願いしたのは、そんなに簡単に手に入るようなものじゃなかったから。衛輔サンタにもさすがに無理だったってことだ。
あの手紙を渡した日から私は衛輔の家に行かなったし、そうすればクラスも違う、今部活で忙しい衛輔と会うことはなかった。

「ただいま」
「おかえり名前。衛輔くん来てるわよ」
「えっ!?」
「ほら、いつもの…プレゼントじゃない?」

お母さんの言葉を最後まで聞かず、私は自分の部屋に駆け込む。バタンッと大きな音をたてて勢いよく扉を開けば、衛輔は呆れたような表情で「ドア壊れるぞ」とだけ言うから、なんだか拍子抜けだ。
衛輔が座る隣に腰を下ろすと、私はそのまま衛輔と向き合った。

「…部活は?」
「今日は早く終わった。クリスマスだからだって」
「へぇ…だから衛輔サンタはうちに来たの?」
「お前なぁ…」

衛輔は眉間に皺を寄せて、私の目の前にあるものを突き付ける。それはやっぱり、私が衛輔に渡したあの…欲しいものを書いた手紙だった。

「…なんだよ、これ」
「なにって…欲しいもの」
「…ふざけてる?」
「ふざけてはない」
「…今年はあげねぇって言ったら、どうすんの?」
「…まぁ想定内、かなぁ」

私の返事を聞いて、衛輔はその手紙を見つめる。真ん中にたった一言"夜久衛輔"と書かれた紙を。

どくんどくんとうるさいくらいに鳴っている心臓の音が、衛輔に聞こえてしまえばいい。そしたらこれが冗談でもなんでもなく、本気だと伝わるのに。

初恋で、もう何年もずっと片想いしていた衛輔にもうすぐ振られるというのに案外私は冷静だった。いや、心臓はうるさいけど。
衛輔は、優しいから。妹みたいな私に、なんて言えば傷つかないか考えているんだと思う。…はっきり言ってくれていいのに。

すると衛輔は、私の頭に手を置いた。小さい頃から衛輔が私によくやってくれた仕草。温かいその手が緩やかに髪を撫でて、そして衛輔は口を開く。

「…じゃああげるって言ったら…どうする」
「…え?」
「お前の欲しいもん。ちなみに、毎年ながら返品は不可だけど」
「それはだいじょう、ぶ、だけど…え?」
「…ばーか」

頭の後ろに移動した衛輔の手が、ぐいって勢いよく私を抱き寄せた。私はその勢いのまま、衛輔の胸にダイブする。何が何なのかよくわからず、衛輔は私を胸元に押し付けたまま言った。

「…こういうことだろ」
「…衛輔、私のこと好きなの?」
「ば…っ!」
「?」
「…好きな奴じゃなきゃ、毎年喜ばせてやろうとしないだろ」
「!」

押し付けられている衛輔の胸からは、私に負けず劣らず騒がしい心臓の音が機こえる。うそ…ほんとに?衛輔は、私なんてただの幼馴染としか思ってないと思っていたのに。

「…衛輔サンタは優秀だねぇ」
「…なんだよそれ」
「だって、いっつも私の欲しいものくれるから」
「…でも今年でそれも終わりだけど」
「そうなの?」
「来年からは…か、彼氏として欲しいもんプレゼントするし」
「…ふふっ」
「なに笑ってんだよ!」
「なぁんにも〜」

温かい胸の中で、くすくす笑うこの時間が愛おしい。小さい頃から全く変わらない安心する衛輔の匂いに、私はこれ以上のプレゼントはもうないだろうな、なんて思うのだった。



やっくんもあんまり書いたことないけど書きたいっていつも思ってるキャラ…なのに他のよりちょっと短くなっちゃった…
20.12.25


- ナノ -