2020'sXmas短編集 fin

  


クリスマスも勿論部活やから、恋やなんやと浮かれている場合ちゃうのはよぉく分かってた。私は選手ちゃうけど、でも選手とおんなじくらいチームを大切にしてる。マネージャーとして、みんなを支えたいと思ってる。せやから今一番大切なんは目前に迫った春高本番で、今はまだこの気持ちは言わん、そのつもりやった。

「苗字北さん誘ったらええやん」
「へ、なに」
「駅前のイルミ、今年もやるらしいで。あれやったら部活終わってからでも行けるやん」
「いや…!そんなん無理やろ。なんで急に」
「友達みぃんな彼氏とデートしとんのに自分は部活かぁって言うんやったら、そんくらいすればええやん」
「でも、私北さんと付き合うてないし…!」
「そんくらい誘ったら一緒に行ってくれるんちゃう?北さんもそこまで鬼ちゃうやろ」
「そんな勇気ないわ…」
「あかんなぁ、女は度胸やで」
「うっさい、私は侑みたいに自信過剰ちゃうねん」
「はぁ!?なんやそれ!」
「休憩終わってんで。はよ戻りぃや」
「!」
「北さん!すんません、すぐ戻ります!」

休憩中、体育館の外で侑と話していると、つい夢中になりすぎて休憩終了の号令が聞こえなかったらしい。いきなり後ろから現れた北さんに二人で驚いて、侑はすぐに体育館に戻っていく。ちょ、待て。置いてかんといてや!

「苗字も、休憩時間は休憩したらええけどちゃんと集中しいや」
「…はい、すいません…」

あーあ、最悪。想い人であり先輩、そんでこの部活の主将である北さんにぴしゃりと言われて、目線が下がる。北さんの前では、ちゃんと、いい子でおりたいのに。何気に注意されたのは初めてで落ち込む、でも自分が悪い。
私は北さんに頭を下げて横を通り過ぎようとしたけど、北さんがそんな私の腕を掴んだことでそれは叶わへんかった。

「苗字」
「は、はい」
「…イルミネーション、行きたいんか?」
「へっ」
「さっき聞こえてもうてんけど」

う、嘘…!?驚いて北さんを見るけど、その表情はいつもの無表情で感情が見えへん。聞こえたって、どっから…!?

「え、いや、その…」
「なんや、聞き間違いか」
「や…!そうじゃ、ないんですけど」
「?」
「…行きたいです、けど」
「イルミネーションって、駅前の、えらい光ってるやつか?」
「へっ…あ、そ、そうです」
「…行くか?」
「えっ」
「…俺と行きたいんちゃうん?」
「いっ!?」

北さんの言葉に驚いて思わず北さんを見つめてまうけど、やっぱりいつも通りのポーカーフェイスで何を考えているんかは分からんかった。それでも聞き間違いじゃないと思いたい。今、北さん、行くかって!!

「苗字?」
「行きたい!です!」

今驚きすぎて時止まっとったけど、でもこんなチャンスみすみす逃すわけにはいかへん。私は千切れるんじゃないかってくらい勢いよく首を縦に振って返事をする。そんな私に北さんは一瞬驚いた顔をしたけど、でもすぐに「ほな行こか」なんて言うてくれはった。なんで急に一緒に行ってくれることを了承してくれたんかは分からん、でも北さんが行こかって言いはったんやから別に細かいことは気にしぃひん!

その後はすぐに「ほんなら戻るで。もう始まるからな」と北さんはアッサリ体育館に戻って行くから私も慌てて追いかけた。向こうの方におった侑と目があって、嬉しくって思いっきりピースしてやったら怪訝な顔されたけど。


* * *


クリスマス当日。いつも通り練習が始まるけど、今日は朝からテンションが高い。なんやって、今日は北さんとイルミネーションやからな!何回もあの日の会話を思い出して、それでも全然信じられへん。だってあの北さんと私が二人で!クリスマスにイルミ見に行けるなんて!

練習終わってから行くんやからまだまだやのに、気合を入れて高く結んだ髪の毛が肩の上で揺れる。
先生にバレへんくらいに、でも少しでも可愛くしたくって付けてきた色付きのリップ。鏡を見る度にほんまにいつもより私イケてんちゃうん?って気になって、無意識に笑みが溢れる。

「マネージャーなんであんなにニヤニヤしてんの?」
「今日北さんとデートやねんてぇ」
「は!?」
「苗字って北さんと付き合うてんの?」
「いや、苗字の片想い」
「おもしろ」

二年メンバーが何やらごちゃごちゃ言うてんのも笑って聞き流せるくらいに私の機嫌はめっちゃ良い。楽しみなことがあったら時間はすぐに過ぎていって、あっという間に今日の練習は終了した。


* * *


「苗字」
「は、い!」
「帰る準備できた?」
「はい!できました!」
「ほんなら行こか」
「はい!」

さっきまであんな余裕やったのに、いざ北さんと二人でお出かけ(って言っても帰り道)となったらめちゃくちゃ緊張しだす、チキンな私。そんな私を見てアホみたいに笑う侑と動画回してる角名は明日絶対殴る。

みんな帰り道一緒やけど、事情を知ったアラン先輩や銀島が他のみんな連れて先出てくれたから、北さんと二人きり。やばい、嬉しいけど緊張しすぎて何も話されへん…!
せっかく、ほんまにせっかくの二人きりやのに何も話せないままもうすぐ駅前。焦れば焦るほど言葉は出てこんくて、自分のつま先を見ながら歩いた。

「あ、あれやなぁ」
「あっ………」
「こんなとこからでも見えるわ」
「ほ、ほんまですね」

視界に入るキラキラとした輝きは、少しだけ空気を緩めてくれた気がする。テンションが上がると、勇気も出る。

「早よ行きましょ!」
「走ったら転ぶで」

まるで小さい子に言うみたいに、それでもくすくす笑う北さんを見れるなんてもうそれだけで今日誘った甲斐があった。そう思ったとき。

「わっ!」
「おい!」

テンション上がりすぎて足がもつれるとか、そんなお約束ある?言われたそばからこけそうになる私の腕を、北さんはぐいって引っ張る。なんとか地面とゴッツンコすることは避けたけど、今度は触れられたところがジンジンする。力が強いとかじゃない、ただ、北さんが触れてるから。

「す、すんません…」
「気ぃつけや」
「はい…」
「…このまま掴んどこか」
「へっ」

手首あたりを掴んでいた北さんの手が、するりと降りて私の手に絡まる。ぎゅっと力を入れられて、手を繋いでるって気付いた瞬間ボンッと爆発したんじゃないかってくらい身体中が熱くなった。それやのに、北さんはそんな私を見てフッと小さく笑っただけで、そのまま普通に歩いて行くから戸惑いは隠せない。嘘やん、私、北さんと手繋いでる…

どこかふわふわしたままイルミネーションで彩られたエリアを歩いた私たちは、「綺麗やな」「そ、そうですね」ぐらいの会話しかせんうちに、一通り見終わってしまった。

「終わりか?」
「…そう、みたいです」
「…楽しかったん?」
「は、はい…!それはもう…!」
「ほんならええけど」

けど、もう終わりやってことに寂しくなってもうてる。気持ちを言うつもりはない。でも、ずっとずっと北さんが好きで、こんな時間を過ごせることも夢みたいやった。そんな夢みたいな時間が終わろうとしてる。明日からは、また、ただの先輩と後輩、選手とマネージャーに戻ってしまう。当たり前のことやのに、今のどこか漂う非日常感が私をセンチメンタルな気分にさせた。

私の様子がおかしいって北さんも何となく気づいたらしい。いつも通りの声で「もういっこ行きたいんやけど、ええか」と言うから、私は少し戸惑いながらもそんなん断る理由なんかない。ずっと繋がれたまんまの手に少しだけ力を入れて、小さく頷いた。

手を引かれてやってきたのは、さっきの場所からそんなに離れてない、でも建物の裏の、あんまり人がおらんとこ。普段あんま来たことない場所で、なんでこんなとこ?なんて疑問が浮かぶ。
ほどなくして立ち止まった北さんの前には、小さなクリスマスツリー。「え…」それは言葉をなくしてしまうくらい、大袈裟じゃなくてほんまにそんくらい、綺麗で。さっきのイルミネーションの方が規模は全然おっきいはずやのに、隠れたところやのにしっかりとライトアップされたツリーがまるでその空間だけ秘密の特別な場所みたいな、そんな風に思わせてくれる。

ずっと私の少し前を歩いてはった北さんは、ゆっくりこちらに振り向いた。

「女の子は、こういうキラキラしたもんが好きなんやろ」
「え?」
「侑が言うとった」
「はぁ…侑?え?」
「何やったら苗字が喜ぶか分からんから、聞いてん」
「それは…なんで…」
「?好きな子は喜ばせたいやん」
「すっ…!?え!?」
「…はは、顔真っ赤やで」
「…北さん…?」
「俺だって何も思てへん子と、こんなとこ来ぉへんよ」
「…それ、って」
「…苗字が好きです。俺と付き合うてくれませんか」

北さんの言葉に、思うてへんかった展開に、頭が全然ついていかへんくって何度も瞬きを繰り返すしかできへん私を、北さんは真っすぐ見つめてる。
好きです、付き合うてくださいって言うた、今?北さんが私のこと?え?ほんまに?今日はほんま、幸せすぎてこのまま死ぬんとちゃうやろか。こんなに幸せでええん?

震えてる私の手を、北さんがぎゅっと握る。今日ずっと繋がれてる手はあったかくて、それがどっちの温度かもう分からんくらいになってる。
返事、せんと。唇も喉も震えてんのは、嬉しくて泣きそうやから。

「わ、私…も、北さんのこと、好きです」
「おん」
「私でよかったら…付き合うてください」
「…おん」

ふっと優しく笑った北さんの表情に、ズキュンと心臓が打ち抜かれた。
なんなん、これ。最高すぎるクリスマスプレゼントやん。私はいまだに震える手で北さんの手を握り返して。そんで、思いっきりその胸の中に飛び込んでみた。

「…あぶないわ」
「へへ…でもちゃんと受け止めてくれる北さん優しい…」
「…なんや今日はいつもよりさらに可愛いらしいなぁ」
「え!?」
「ふふ…放課後から、柄にもなくずっとソワソワしとったわ」

そうやって照れくさそうに言う北さんの破壊力たるや。私は一瞬前までの大胆さはどこにいったんか、ひたすら赤くなった顔を見られへんようにとりあえず北さんの胸に顔を埋めた。


一発目は前にリクエストで一回だけ書いてめちゃくちゃ楽しかったかった北さんです…!これから増やしていきたいキャラでもあります。
20.12.24.


- ナノ -