5万打フリリク企画 fin

サタデーナイトに帰らなくちゃ



「なぁはよこっちきぃや〜」
「はいはいちょお待ってな」
「無理!あと3秒で来い!」
「ちょ、待ってや」
「さーん、にーい、いー」
「はい来た!」
「遅いわぼけ!」
「理不尽!」

ぷんぷんと口を尖らせる侑を見て、私はため息を吐いた。大体私がしとった洗い物ん中にはアンタの食器も含まれてんねんで、と。思ったけどそれは言葉にはしなかった。
手を拭いて側にきた私を、ソファに座った状態のまんま嬉しそうに抱き寄せる侑の表情は可愛くって、まぁ久しぶりに二人でゆっくりできるもんな、と多めに見てあげることにする。

珍しく明日は私も侑も休みで、となると前日の夜なんか最っ高に嬉しいに決まってる。いくら同棲しているからって最近は忙しくて中々一緒にいられないし、私だってそろそろ侑不足だったのだとお腹のあたりに来る侑の頭を抱きしめた。

「あっ……!!」
「え、なに?」
「忘れとった、ちょい名前、隣座り」
「?どうした……痛ぁ!」

侑に促されて隣に腰掛ければ、すぐさま食らった容赦ないデコピン。じんじんと痛むそこに手を当てて侑を睨めば侑も同じような口をへの字に曲げてこっちを見ている。

「何よ!」
「お前、今日あげたとった公式SNSの写真…」
「え?」
「なんっやねんあの俺の顔!もっとええ顔のあったやろ!」
「ええ…」
「また…ほら見てみい!リプでいじられてるやん!」

ずい、と見せられたのは今日の午前中に私が更新したMSBY公式SNSの練習風景の写真。少し前に練習中に撮りに行ったその写真には侑も写っているが、確かに、ちょっと変な顔?ていうか角度の問題やと思うけど半目みたいになってる気がする。

"宮選手、顔w"
"寝てんのかな?w"
"可哀想やけどイケメンのこういうの好きw"

「好き言うてもろてるやん」
「それも後ろに草生えとるやろがい!」
「まぁ、それも侑が愛されキャラやいうことやわ…」
「嫌や納得いかん!これ消してもう一回投稿しなおしてや!」
「えーめんどくさい…」
「お前それが仕事やろ!?」

まぁ確かにそうやけど。載せちゃったものは仕方ないし、最近の侑はスベッていじられるのがお決まりだからこれもその一種と言っていいでしょ。なんて言ってもギャンギャン騒いで文句を言っている侑が納得するはずがない。よぉしここは。
私はソファの上で方向を変えると、ぎゅうっと侑に抱き付いた。

「ちょっ…なんやねんまだ話終わってへんぞ!」
「もぉええやーん。過ぎたことやし、な?」
「よくない!全っ然過ぎてへん!」
「かっこいい侑載せて他の子にキャーキャー言われんの嫌やねん」
「え、…なっ…」
「許してやぁ」
「お、ま………」
「……な?」
「ほんっま……ずるいやっちゃなぁ」

ぎゅう。侑の方からもその長い腕が回ってきて、私は抱き寄せられる。チョロいなぁ。
そう思ったけど、でも言ったことは別に嘘でも何でもなかった。スター選手の侑は女の子のファンも多いし、それを近くで見ている私からしたらいつ他の子に目移りするのかヒヤヒヤして、たまったもんじゃない。

チームの広報として、仕事に手を抜いたつもりはないけど。カッコいい侑を沢山の人に知ってもらうのが、私の仕事だけど。今回ばかりは許して欲しい。今だけは、かっこいい侑を独り占めさせて。

「…他の女に何言われても何も思わんわ。名前しか見てへん」
「…ファンをそういうふうに言うのってどうなん」
「ほんならどうしたらええねん!」
「ふっ…うそうそ、嬉しい」
「最初っからそう言えや」

言い方は乱暴だけど、でも私がそういう風に言ったのがよっぽど嬉しかったのか見上げた侑の頬は緩んでいる。
すると視線に気づいた侑は、私の耳元で「何見とん」と言ってからフゥッと息を吹きかけた。

ぴくっ、と肩を跳ね上がらせるとフッフ、といつもの笑い方。目が合って、キスをして。
一瞬だけ触れたそれはすぐに離れてしまい、物足りなくて追いかけてしまう。侑はそれにまた満足そうに口角を上げると、私の横髪を耳にかけるついでにそのまま頭の後ろに手を回して引き寄せ、さらに深く口付けた。

「ふぁっ…あ…つむ、……っ」
「ん、………なん、?」
「こ、ゆーの…久々や、ね、」
「…せやなぁ…」
「ふ、ふ……嬉しー…」
「…かわええやんけ」
「…へへ」

ちゅ、と音が鳴って離れていく唇。どちらのものか分からない唾液が糸を引いて、ぷつんと切れた。至近距離で合ったままの視線はお互い逸らすことなく混じり合っている。確かにそれは、熱を含んで。じわっと体の奥が熱くなった。

「…明日の名前の予定は?」
「…なんも。侑は?」
「俺もや。…ほなカッコいい侑くん、嫌って言うほど見せたるわ」
「…うん」
「…明日立たれへんくなっても知らんからな」
「…そんときは侑が介護してな」
「介護て」

侑は私の肩を押して、ドサリとソファに倒した。


20.11.28.
title by 草臥れた愛で良ければ
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はるる様リクエストありがとうございました!
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