5万打フリリク企画 fin

ろくでなしのワルツ



「この子めっちゃ可愛えな。付き合うならこんな子がええわぁ」
「えーお前こんなんがええの?俺やったら絶対嫌やわ」
「え、なんで?可愛いしおっぱいでかいしめっちゃええやん」
「ええけど…彼女はないわ」
「え?」
「こんなおっぱいでかかったら他の奴にめっちゃ見られるし、もうちょっと普通なんがいい」
「確かに…エロ動画だけでええかもな、こんなでっかいの」
「やろ?」

たまたま聞こえてきた、クラスの男子達が話してる会話。最低な内容は年頃の、てか男子やし、別にしゃーないとは思う。せやけどそれは思いっきり自分に突き刺さった。

私は同じ年代の子らより少し…いやだいぶ、胸が大きい。泊まり行事とか体育の時とかに友達から「ええな〜!」ってよく言われるけど、何がええんかもよくわからへん。
肩は凝るし、走ったりしたら揺れて痛いし、ブラジャーも可愛いの全然ないし。
それに何より。男子達が見てくるから、それが嫌や。いつでも向けられる好奇の目は自分の胸の大きさをコンプレックスにするには十分だった。

今も話しとった男子達がこっちを見てコソコソ話してるから、ため息を吐いて私はそれから逃げるように教室を出た。話している内容は多分「苗字みたいな?」「あれはやばいよな。グラビアの子も同じぐらいちゃうん」こんな感じやろ。聞こえてるわ、アホ。

「あれっ」
「うわ、名前ちゃんやん。どーしたんこんなとこ来て」
「侑こそ」

たまにはいつも行かへん場所で過ごそうかと屋上に行ってみたら、そこには見慣れた金髪。
いつもは教室の男子と一緒になって騒いでいる侑が一人でこんなとこにおんのが珍しくて、私はそのまま侑の隣に座った。

「元気ないやん」
「わかる?」
「おん。俺名前ちゃんのことやったらなんでもわかんで」
「すご。じゃあなんで元気ないか当ててみて」
「んー…購買の人気プリン買われへんかったんやろ」
「あはは、なにそれ。侑が今食べてるやつ?」
「これほんまはサムのやねん。さっき横取りしてアイツめっちゃキレてるから、今逃げてるとこ」
「あ、だからこんなとこおるんや」
「そうそう」

そう言いながらぱくぱくとプリンを食べる侑は、何か可愛い。
何回か前の席の時に隣になった侑はよく喋るしよく食べるしよく寝る。授業中寝てたからってノート見せてあげたり、どうでもええ話めっちゃ盛って面白く聞かせてくれたり、コンビニの限定のチョコくれたり何かと構ってきてたからいつの間にか仲良くなってた男の子。

そんな侑の隣におるときはいっつも気にしてる周りの目もあんまり気にならへんくて、なんかよう分からんけど落ち着くからまぁまぁ気に入ってた。

「で?ほんまは?」
「ああ…そう。さっきな、」

私は侑に、さっき教室で聞いた話をそのまま聞かせる。最後にそれが不快で教室を出てきたことを付け加えると、聞いてもらえただけでちょっとスッキリした気がした。

「まぁ男やからな。しゃーないよな」
「そうやんな…それは私も思う」
「で、名前ちゃんはそういう話が苦手なん?」
「苦手って言うか…むかついたんかも」
「?」
「胸でっかい人は彼女にしたない、って言うてたんが…あんたらいっつもめっちゃ見て来るくせに!って」
「…ほう」
「っていうか好きな人にもそんなん思われたらどうしよう…私一生彼氏できひんやん…」
「えっ!」
「え、なに?」
「名前ちゃん好きな人おんの?」
「いやおらんけど」
「………」

この先、の話やん。
侑を見ればジトッとした目で見てくるから、どういう感情かようわからんくてスルーした。私は必死なんや。
ていうか私、なんでこんなこと侑に話してんねんやろ。男子に話す内容ではない気がするけど、それは侑にはなんでも話しやすいっていうか、侑が聞き上手なんか。

「そんなん気にする男ばっかちゃうから大丈夫やって」
「でも私手遅れならんように、毎日胸ちっちゃなるマッサージしてんねん」
「いやアホちゃう!?」

侑は私に芸人ばりの裏手ツッコミをかますと、一度立ち上がって私の正面に移動する。しゃがみこんだだけやから地べたに座ってる私の方が視点は低くて、自然に侑を見上げる形になった。

「そんなことしたらあかん!」
「え、なんで」
「それがいいって男もおるかもしれんやん!」
「たとえば?」
「おっ…」
「お?」
「……俺とか?」

そう言った侑は、みるみる真っ赤になっていく。え…?侑、今なんて言うた?

「あ、侑?」
「…なんやねん!」
「えっ、なんでキレんの」
「名前ちゃんがめちゃくちゃ鈍いからやろうが!」
「えっ」
「俺ずっとあんっなに分かりやすくアピールしとったのに!!」
「ええ…」

そんなん言われても、私には全く自覚がない。
めっちゃ話しかけて来るんも、お菓子くれるんも、全部そういうことやったん?そういえば侑がおる時はみんなの視線もあんま気にならんかったんは、もしかして侑が私見られんの嫌で周りに牽制してたから…っていうのは流石に自惚れすぎ?

「…わっかりにく…」
「はぁあ!?」

さらに大きな声を上げた侑は眉を釣り上げてるけど、顔が赤いせいで全くこわくない。こんな侑を見るのは初めてで、そんで今まで侑のことなんて友達としか思ってへんかったのにドキドキと胸が鳴る。

これ、屋上で良かった。心底そう思った。もし話しとったんがいつも通り教室とかやったら、絶対みんなに見られとった。

「侑、私のこと好きやったん…」
「だからそうやって言うてるやん!」
「だってそんな感じ全然せーへんかったもん…」
「そりゃあ名前ちゃん男嫌やー言うてたから俺にしては控えめにいっとったけど…そんでも気付くやろ普通!」
「そ、そんなん普通ちゃうよ…」

季節は冬になろうとしてんのに、ここだけ異様なほど暑い。私は手でパタパタと仰ぎながら、侑から目を逸らした。こんなん、見つめられ続けとったら熱出て倒れてまう。

「ど、どこが…」
「え?」
「私の、どこが…好きなん?」

聞いてみたのは、乙女心。だって気になるやん、私のどこ好きになってくれたんやろーって。どこ?いつから?キッカケは?聞きたいことは沢山ある。
でもそれは、すぐに後悔することになった。

「そんなんおっ…………」
「お?」
「…おでこの形が…ええとこに決まっとるやろ」
「おでこ?」
「…おん」
「…形ええかな?」
「……おん」
「ほんまは?」
「おっぱいでかいとこです」
「…最っ低」

私は胸の前で腕をクロスさせて、隠すようにしながら侑を睨む。それで慌てだした侑は、あろうことかそんな私の腕を取って勢いよく引くから私は侑の方に倒れ込んでしまった。
ちょ、やめてや。なんて侑を押してもびくともしない。ぎゅううっと抱き締められて、顔は見えないしでも嫌なくらい熱は伝わる。

一瞬引いたはずなのに、私はまたドキドキして仕方なくて。こんなこと初めての経験で、どうしたらいいのかわからなかった。

「…ごめん。でも、ほんまに好きやねん」
「………あたしがそういうの言われんの嫌いなん、知ってるくせに」

言ってみたけどこれは最早ただの照れ隠しでしかなかった。いつも男子に見られるのは、揶揄われるのは、嫌なのに。大きな胸はコンプレックスだったはずなのに。
なぜか今は、侑だけは、嫌じゃなくて。

「でもほんまにそれも含めて、名前ちゃんのこと好きやねん」
「うう…」
「俺のになってや。もう他の奴らに見せんといて」
「見せてへんし…」
「俺の彼女になってくれたら、俺がずっと守ったるやん」
「…ほんま?」
「おん。任せろ」
「……うん」

気が付けば、小さく頷いていた私を侑はまた力一杯抱き締めてくれた。

「…なぁ、一個お願いあるんやけど」
「…なに?」
「ちょっとそのおっぱい、揉ませてくれへん?」
「…最低」
「ええやん!ずっと揉んでみたかってんから…!」
「…やっぱ付き合うのやめとこうかな」
「はぁ!?一回OKしといてそれはなしやろ!」

でもこの日から、あんなにコンプレックスやったのがほんまにちょっと気にならんくなったのは事実。
今度こそ分かりやすすぎるくらいに周りを威嚇して私を守ってくれる侑に、キュンとしたのはまだ言ってあげへんけど。


20.11.13.
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