5万打フリリク企画 fin

きみの宇宙で息をする



18時、定時きっかり。タイムカードを押して、すぐに会社を出る。スマホを確認すれば受信していたメッセージに返事を返していると、手元が暗くなって目の前に誰かが立ったのだと気付き顔を上げた。

「臣くん!」
「…お疲れ」
「ありがとう!今返事しようとしたところだったよ」
「すぐ見つけたから」

言葉少なに私の手を繋いで歩き出す臣くんは、私の彼氏。高校から付き合ってるけど、社会人になった今も順調に続く彼はプロのバレーボール選手だ。
臣くんは潔癖症だと言うくらい何をするにも慎重で、こうやって手を握ってくれるのも多分私くらいだから少し優越感を覚えてしまうのは何年経っても変わらない。

「ごめんね、わざわざオフの日に迎えに来てもらって…」
「別にいいけど」
「あ、マスク新しいの買わなきゃ。薬局寄っていい?」
「うん」
「ご飯の用意は買ってあるんだぁ」
「お前が作るの?」
「うん、そうだよ!」
「…手伝おうか」
「え、いいの?じゃあ二人で作ろっか」

にっこりと笑って高い位置にある臣くんの顔を見上げれば、臣くんも分かりにくいけどマスク越しに少し表情が緩んだ気がした。

手を繋いで帰る私が一人暮らししているマンションは、臣くんが来たらちょっぴり窮屈になるワンルーム。だけど私はこの狭くなった空間が大好きで、だって臣くんとくっつけるから。
こんなこと、多分古森くんにだって言っても信じてもらえないだろう。臣くんは私の前では、意外にひっつき虫なのだ。

二人で作った晩御飯を食べて、二人だけの時間。私は明日は休みだし、臣くんの練習も午後からだから時間はたっぷりある。

「臣くん、そっち行っていい?」
「ん」
「わーい!」

臣くんの隣に座れば、ゆっくりとかけられる体重。その重さが心地よくて、やっぱり笑ってしまう。

「臣くん」
「…なに」
「今日はなんか、甘えたさんだね?」
「………」

きっと私の仕事が忙しくて、臣くんとの予定も合わなくて、今日会うのが久々なせいだろう。私だって早く臣くんに会いたくて仕方なかった。私の方からも臣くんにもたれかかると、ほのかに石鹸の香りがする。
無言は肯定の証。ゆっくり顔を近付けると、臣くんはいつもバレーボールを掴むその大きな手で私の頬をがっつりと包み込んでいきなり舌をねじ込んできた。

「ふっ…んんんっ」

中で自由に暴れ回るそれに翻弄されながら、私も必死にそれに応える。絡み合う唾液がどちらのものか分からないくらい混ざり合って、甘い痺れが私を襲った。

「おみ、くん」

どれくらいそうしていたんだろう。すっかり力が入らなくなった身体は完全に臣くんに支えられていて、酸欠で頭はくらくらする。

「…顔赤い」
「い、今そこ?…臣くんのせいだよ」
「ふっ…もっとする」
「だ、だめ!」
「…なんで」

むにむにと私のほっぺたを摘みながら眉間に皺を寄せる臣くん。マスクがないからよく見えるそんな表情でも綺麗で、思わず許してしまいそうになる、けど。

「お、お風呂…まだ入ってないし」
「知ってるけど」
「私一日仕事してたし!ほら、汚いよ」
「汚くねぇ」
「ええ…う、ウイルスいっぱい付いてるかも」
「名前は大丈夫」

なんて。そんな、何を根拠に。臣くんらしくない言葉に疑問を感じながらも臣くんは引き下がってくれなくて、やだやだと首を振って抵抗する私を引きずるように引っ張って自分の太ももの上に乗せてしまう。
どうして、こんな。いつもなら早くお風呂に入って来い、と言うくらいなのに。

臣くんがいいならいいのかな、なんて思ったりもするけど、いつもお風呂上がりの綺麗な状態でしか触られないから今触られてもしやっぱり汚いとか思われたら立ち直れない。

その後も頑なに拒否する私を見て臣くんはため息をついて、それはもう不満気に、漸く解放してくれた。

「…臣くんやっぱり何かあった?」
「……今日」
「うん?」


* * *

「おみおみ最近はよ帰らんなぁ?前は終わったら速攻帰っとったのに」
「ああ」
「ああって……あっ!彼女さんと喧嘩でもしたんやろ!」
「…してないけど」
「ほんなら何?あんま彼女さんほっといたら愛想尽かされんで!」
「向こうが仕事なだけ」
「えー?もしかしてもう手遅れやったりして…」
「は?」
「う、わ、き!されてへん?」
「浮気なんて…」

* * *


「…してねぇよな」
「えっ、それで心配になっちゃったの?」

話を聞いて、納得して。相変わらずちょっとネガティブな臣くんに思わず笑ってしまう。それに分かりやすくムッとした臣くんは、頭を私の首筋にぐりぐりと押し付けた。それがまた、可愛く見えてしまう。

「…私が臣くんだけなのは、臣くんが一番知ってるでしょ?」
「…ん」
「好きだよ、臣くん」
「知ってる」
「それなら良かった」
「…なんか余裕なの、ムカつく」
「えっ…ふ、っ」

笑っていたら、またさっきみたいに唇を奪われて、呼吸ごと食べてしまうようなキスに今度こそドロドロに溶かされてしまいそう。

「ふぁっ…ん…お、み……くんっ…」

歯の並びを確認するみたいに歯列に沿って丁寧に舐めらとられて、一瞬引いていたさっきの熱が呼び戻される。ざらりとした感触が口の中を撫でて、その度に身体の奥からビリビリするような。

苦しくて、臣くんの胸をトントンと叩けば少しだけ離れてくれて、でも今度は熱っぽい目に捉えられる。

「はぁ…っ…」
「……チッ」
「え…?」
「…風呂入るぞ」
「う、うん」
「ほら」
「え!?一緒に入るの?」
「早く」

私の腕を引っ張る臣くんの手はすっごく熱くて。この後のことを考えて私は既に逆上せそうになるのだった。


20.11.25.
title by コペンハーゲンの庭で
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ゆず様リクエストありがとうございました!
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