短編

踏みつぶした夜明け




年が明けて約一時間、午前一時を少し回った頃。家族で年末歌番組を見てカウントダウンをしたあと、次々と届く友達からのメッセージに返事を返す。うちの家族はみんなカウントダウンが終われば目的は終わったとばかりにベッドに入ってまうから、私は自分の部屋に帰って部屋着から用意してた服へと着替えた。

タイミング良くピロンと受信したメッセージを確認して、ゆっくりと部屋を抜け出す。静かに靴を履いて玄関の扉を開けたら、そこには幼馴染の治がポケットに手を突っ込んで立っとって、私は手を振りながら駆け寄った。

「治!あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう。おばちゃん達にバレてへん?」
「うん、多分大丈夫!治は?」
「おとんおかんは寝たけどツムはまだテレビ観とるわ。帰ったらバレとるかも」
「ありゃあ…しゃーないね」
「ふっふ、悪いことしてるみたいやな」
「せやね」

笑いながら、自然に繋がる手。するりと指を絡め取られて、そのまま治のポケットに入れられる。

「治ん手あったかい」
「カイロ。名前の分もあるで、そっちの手あっためとき」
「わ、ありがとぉ」

治から受け取った、十分に熱を持ったカイロを一つ繋いでる方とは逆のポケットに入れる。そのまま神社の方に向かって歩き出した影は、街灯の下ゆらゆらと揺れていた。

「…侑怒るかなぁ?」
「さあなぁ…別に怒らんのちゃう」
「てきとーやん」
「流石に気付いてるやろ、普通に」
「え、ほんま?恥ずかし」
「今更やわ」

私と侑と治は幼馴染で、小っちゃいときからずっと一緒におった。高校まで学校もずっと一緒、奇跡的に毎年クラスもどっちかと一緒になるし、今は選手とマネージャーで部活も一緒。ずうっと一緒におるのに、この冬休み、私と治の間にだけ幼馴染ともう一つ肩書きが増えた。

別に約束してるわけちゃうけど毎年元旦の日の昼くらいに三人で初詣に行くのが暗黙の了解やのに、「その前に一回二人で行かへん?」って提案してきたんは治の方。部活ばっかでデートらしいデートは出来ひんけど、こんくらいは二人で過ごしてもバチは当たらんやろって言われた誘いに侑への罪悪感はありつつも私は頷いた。

別に報告したわけちゃうけど、侑は私と治の関係に気付いてるんか。ていうか治は知らんけどちっちゃいときから私が治を好きなんも知られてて、事あるごとに私ら二人を一緒にしようとするんはいつも侑の方やった。…もしかして、治も侑に相談したりしとったんかなぁ?せやったらなんかくすぐったいけど、でも嬉しいなぁ。

「…何わろてんねん」
「えっ」
「人の顔見てニヤニヤしよって」
「うぇ、や、うそぉ」
「ほんま。やらしい子やなぁ名前チャンは」
「なっ…なんそれ」
「そのまんまの意味やろ」

ジトリとこっちを見ながらマフラーに顔を埋めて小さく笑う治を見て、ちょっとキュンってする。何年も一緒にいるのに見たことのない表情が新鮮で、それを見せてくれてることがなんか嬉しくって。
真冬の深夜の空気はツンと冷たいのに、私達の周りだけちょっとふわふわしてる気がする。今私彼氏と一緒に歩いてるんやとか、浮かれてんやわ多分。

「…治は、侑、に、そういう話…すんの?」
「…そういう話?」
「…うん」
「え、なに?下ネタ?」
「え、ちゃ、ちゃう!あほ!」
「ソウイウハナシって言うたん名前やん」
「なんでそっちの方にばっか持ってくん!変態!」
「男はみんな変態やねんで」
「嫌や治からそんなこと聞きたない…」
「嫌なった?」
「え」
「そんなん言うから俺のこと嫌い?」
「え、あ…え?」
「ん?」
「き、嫌いちゃう…けど」
「けど?」
「……好き、やけど」
「ん。俺も名前好きやで」
「…………」

違う違う違う、待ってなんの話!チラッて見た治はニヤニヤ笑っとって、これ絶対私のこと揶揄って遊んでるやん!全然ちゃう方に話もっていかれて、なんか知らんうちに一方的に照れさせられてる私は悔しくって唇を噛む。
ていうか治こんな、普通にそういうこと言うの!?これって普通?彼氏彼女ってこんな感じなん!?

慣れへん距離感にどうしたらいいか分からんくて俯くけど、でも相変わらず手は治のポケットの中で繋がれてるし、意識したらそんなことまで急に恥ずかしくなってくる。思ったけどこんなちゃんと手繋ぐんも小学校ぶりとかちゃう?え、なんか、私手汗とか大丈夫?

そんな私なんか全然気にしてへん風な治は、「あ、ツムからきとる」とか言うてスマホ見てるし。

「…侑なんて?」
「"おみくじは先引くなよ"って」
「え、そんだけ?」
「おん。毎回誰が大吉引けるかやるからそれだけは昼行く時に残しとけって」
「意外にアッサリしてんなぁ」
「せやから言うたやろ?」

ふっふ、って笑って楽しそうな治は私に言った。

「…ツムには、まぁ前から話しとったで」
「え?」
「…ソウイウハナシ」
「…例えば?」
「名前が可愛すぎて襲ってまいそうやねんけどどうしたらええかとか」
「ぶふっ」
「先に告った方がええんちゃうって言われた」
「意外に侑の方が常識的!え、てか治こわ」
「なんで」
「え、いや、だって」
「…そんくらいずっと名前のこと好きやってん」
「えぇ…」
「せやから、な、覚悟しといてや」
「…な、なに、を」
「……まぁ神さんに挨拶した後にしよかぁ、ソウイウハナシは」
「え、いや、ソウイウハナシ!?なに!?」

完全に前を向いてしまった治は、もうすぐ到着する近所の神社に行くだけやのにふんふんと鼻歌まで歌ってまいそうで。ふわふわした空気、どころか強制的にめっちゃ甘いんやけど。え、侑、助けて。私この先耐えられる…?

新年早々、ちょっと不安になる治の隣。早速いろんなことが起こりそうで、神様に手加減してもらえへんかお願いすることにしてみます。


21.01.01.
title by 朝の病

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