短編

ここからは副音声でお送り致します




ずっとずっと片想いしとった治と付き合えて、ますます彼を好きになった。でも友達時代ですら緊張して上手く話せんかったのに、彼女として隣にいるとか更に緊張する。もっといっぱい色んな話がしたいのに、こんなんじゃうまく話せるわけない。…片割れの侑とやったら、全然普通に話せんのに。

"いやサムに緊張する必要ないやろ"
"そんな無茶な…"
"俺には普通やん。顔一緒やで?"
"顔しか一緒ちゃう!"
"失礼な奴やなぁ。じゃ、サムのどこが好きなん?"

付き合う前から私の相談相手としてよく話を聞いてくれとった(と言うか半分は揶揄われてただけ)侑とは今もよくメッセージアプリで話を聞いてもらってて、治とのやりとりが一往復する間に侑とのやりとりは十往復ぐらいする。…治ともこんくらい話したいのに!!そう思う気持ちはあるのに、中々実行できひん私、情けない…

「治の好きなとこ…」

そんなんいっぱいある、それこそ数えきれへんくらい。そう言うたら「そういうのはええから」なんて返事が返って来るのは分かってるから、私は少し真剣に考えた。特に悩むことなく、それは文字になっていく。

"まず私めっちゃ治の手が好きやねん"
"え、いきなりなに?手?"
"うん。バレーしてる時はすごい力一杯スパイク打ったりすんのに、細かい作業とか器用にやるし、指綺麗やし、あと私と手繋いでくれるときとかはめっちゃ優しいねん。安心する"
"ほお"

治のあったかい手を思い出して、ふふっと笑みが溢れる。

"それから、声も好き。たまにめっちゃ近くでなんか言われることあんねんけど、そん時なんかうわぁー!ってなる"
"うわぁーww"
"侑よりちょっと声低いやん?色気やばくない?めっちゃかっこいい好き"
"めっちゃ褒めるやん。他には?"

「ええ?他?」

うーん、他なぁ。いやまだあるけど。いっぱいあるけど。

"ご飯食べてる時の顔が可愛い"
"可愛いか?そんなん言われても嬉しないわ"
"侑に言うてるんちゃうもん!あと、いっぱい好きって言うてくれる!私も好きって言いたいのに、中々言われへんねんけど…"
"そんなんいくらでも言うたるで"

「え?」

言うたる。その文字に違和感を覚えてお前ちゃうわって思ったんやけど、でもそこで私は自分がとんでもなくアホやらかしていることに気付いた。
これ、おさ、え!?…私治に誤爆してるやん!

侑やと思ってメッセージを投げていたのはいつの間にか治になっとって、私はずっと治本人に治の好きなところを送り続けていたのだ。うそ。え?
見返してみると、ちょうど手が好き言い始めたところから私の送り先は治になってる。二人同時にメッセージやりとりしとったから…!ほんま…アホ!!!

え、どないしよ。こんなんめっちゃ恥ずかしいやん。普通に話すんも上手く出来ひんのに、こんな、…えぇ。

なんて送ったらいいか分からんくて、スマホの上で指は止まったまんま。するとピロピロと今度は着信画面になって、勿論かけてきてんのは治で…
うっ…出たない。無理、恥ずい。でも…あああ。

ええい!と通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てる。心臓はうるさいくらいバクバク鳴ってて、壊れそうなくらいで。無理…治、なんか言うて。いやでも言わんといて。なんて矛盾した気持ちのまんま、私は治の言葉を待った。

「…名前?」
「…はい、私が名前です」
「ふっ…なん、それ」
「…侑に送ってるつもりやったのに」
「え?あぁ、だから…急になんかえらい素直なってんなぁ思てん」
「うー…むり、お願い忘れて…」
「いや無理やろ」
「消えたい…」
「なんで?めっちゃ可愛いやん」
「うっ…」

治の低い声が、機械越しに嬉しそうに笑った。それがなんかくすぐったくて、家ん中やのに思わずベッドの上で正座してしまう。

「…な、名前」
「…なに」
「今から会いに行っていい?」
「えっ…こんな時間に?」
「すぐ帰るから。会いたなってもうた」
「…うん」
「家着いたらまた電話するわ。あったかくして待っとき」
「…うん」
「ほんならまたあとで、」

そう言って、プツッと通話が切れる。スマホを当ててた耳がこしょばい。え、今から治、来るって。
一体どんな顔して会ったらええんかわからんけど、でも私もちょっと治に会いたなってて。

早く治来おへんかなぁ。部屋着の上からダウンジャケット、その上にマフラーをぐるぐる巻きにして、来た時には今度は私から「好き」って言うてみよう、そう密かに決意した。


20.12.31.
title by 草臥れた愛で良ければ

- ナノ -