短編

甘い涙のわけ




"要注意!男に嫌われる10の女辞典"

そんな見出しが出ていると、ついつい見たくなってしまう。そして、いつも後悔する。

「私じゃん…」

そこに載っていた特徴4つ目、当てはまってる。連絡はできる限り毎日したいし、タイミングが合うなら電話だってしたい。お揃いもしたいし記念日にお祝いもしたい。彼が少し女の子と話しているだけでもすぐ不安になって、泣いて困らせることもしばしば。これって完全に私。
重い女であるのは自覚していたけれどこうやってネットの記事、第三者の目線から否定されてしまったら元々ない自信も粉々に砕け散ってしまった。

「で、泣いてんの?」
「うぅ…」
「あーもう、ほら、こっち向いてみ?」

鉄くんの膝の上、私は言われた通り鉄くんの肩口から顔を上げて見上げれば、おかしそうに笑う鉄くんが指で優しく涙を拭ってくれた。

「鼻水垂れてんじゃん」
「うそぉ…やだ…」
「ほら、チーンってして」

私、子供みたい。っていうか鉄くんも完全に子供扱いしてるよねコレ。素直に鼻をかめば、そのティッシュは鉄くんによってくしゃくしゃに丸められてゴミ箱に飛んでった。

「肩めっちゃ濡れてて冷たいんですけど」
「ごめん…」
「ふっ…いいよ、全然」

鉄くんは、優しい。家に遊びに来た途端泣きだした私を落ち着くまで理由も聞かず慰めてくれて、落ち着いて私が話し出せるまでその温かい手で頭を撫でて安心させてくれる。でも、知ってるよ。こういうところが重いんだよね、私。

「なんですかぁ、その顔は」
「うっ…私重くてごめんね…き、嫌いにならないでぇ」
「ちょっとお嬢さん、俺のことナメすぎじゃない?」
「ひっく…」
「こーんな可愛い子、嫌いになるわけないっしょ」

そう言って、鉄くんは私の頬に手を添えておでこ同士をコツンと合わせた。至近距離で合う視線にドキドキする。付き合って何年経っても変わらない、私はいつだって鉄くんに恋しているのだ。

「名前チャンは俺のことめちゃくちゃ好きなだけでしょ」
「…うん…でもそれが」
「重いって?そんなら重いの上等。まぁ俺の名前チャンへの愛の方が重いけど?」
「………」
「毎日名前チャンに会いたいし、声だって聞きたいし、他の男に見られんのも嫌なんですけど。重い男だから嫌いになる?」
「な、ならないっ」
「おっ、気が合うねぇ。俺も」

楽しそうに笑った鉄くんは、そっと唇を掠めた。一瞬だけ触れたその唇はふわふわで、もっと、と視線で伝えれば鉄くんはすぐに口付けをくれる。啄むようなそれは涙でちょっとだけしょっぱい。

ちゅ、ちゅ、と音がしそうな可愛いキスは段々と深いものに変わり、息を求めて開いた隙間から鉄くんの舌が滑り込む。絡め取られたら終わり、もうされるがままの私は甘い痺れを大人しく享受するしかない。

「ふ、む…ぅ…鉄、く…」
「んー…?」
「好ぅ…きっ…」
「…俺も、好き…大好き、名前…」

鉄くんに抱っこされて、求め合う。私を支える逞しい腕も、昔から変わらない香りも、全部が大好きで、また私を溺れさせるのだ。ああ幸せ。かっこいい、鉄くん、大好き。

「はぁっ…鉄くん」
「なんでしょ、名前チャン」
「どうしてこんなに鉄くんかっこいいの…」
「名前チャンもどうしてそんなに可愛いの」
「無理…彼氏がかっこよすぎて死んじゃう…」
「いや生きてくんなきゃ鉄朗くん寂しいんですけど」

私のほっぺをぷにぷにと摘みながら、鉄くんは言う。痛いとくすぐったいの中間くらいの力加減で遊ばれて、私は幸せなのに涙が溢れそうだ。ねぇ、人間って幸せでも泣けるんだね。

「もう変な記事読まないでネ」
「うん…」
「読んでもいいけど俺と他の男は違いますので、そこんとこよく覚えとくこと」
「ふふ、はぁい」
「…ほんとに分かってんのー?」

ペシっと全く痛くないデコピンをされて、私はまたぎゅっと、鉄くんに抱きついた。ねぇ鉄くん。どうかいつまでも、好きでいさせてね。


20.11.27.
title by コペンハーゲンの庭で
ashurahime 1st anniversary.

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