短編

あの日から繋がる熱を




かつての仲間やライバル達が戦っている姿は圧巻だった。
元烏野高校バレーボール部マネージャーの私は、同級生の日向や影山くんが出ている試合を観に、久々に元チームメイト達と顔を合わせていた。やっちゃんや山口くん、月島くんとはよく会っていたけど、他の皆さんとはかなり久しぶり。連絡こそ取っていたけれどこうして大集合するのはそれこそ澤村さん達が引退したときぶりかもしれなかった。

「すっご…良かった…!」
「うん、感無量だねぇ…!」

やっちゃんとえんえん泣くのも懐かしい。日向も、影山くんも、すごいよ。
試合が終わって、選手達はファンの人に囲まれていて忙しそうだ。私達もサインもらいに行く?なんて、やっちゃんに提案しようとしたときだった。

「ドーモ」
「!」

澤村さんの背中から現れた、これまた懐かしい顔。

「!久しぶりだなぁ、元気だったか?」
「お陰様で。サームラくんこそ、元気してた?」

その姿を見て、ぐわ、っと体温が上昇する。かつての音駒の主将、黒尾さん。私が一年のときに合宿で度々お世話になった先輩だった。

「名前ちゃん…!」
「ややややっちゃんどうしよう、」

やっちゃんが私の肩をペシペシと叩く。どうしよう、震えてる。まさか、今になって、こんなところで、会えるなんて。

一年生のとき。初めて見た時からドタイプな黒尾さんに所謂一目惚れした合宿で、その姿を見る度に密かに想い慕っていた。
当時の私は、背が高くて大人っぽい他校の先輩、しかも主将に話しかける勇気はなくて、ほとんど話すことはできなかったけど。それでもマネージャーとして業務連絡を受けたり、木兎さんと一緒にたまに絡んで来てくれたりしたときには嬉しくて嬉しくてその日は中々眠れなかった。

音駒にはマネージャーがいないから、黒尾さんについて教えてくれるのは専らそれ以外の梟谷グループのマネージャーの皆さん。でも結局その一年しか私は黒尾さんと被っていないし、連絡先を聞いたりなんて大それたことは出来なかった。ただ、見ていただけ。

そんな、高校時代密かに好きだった人に、大人になった今こんなところで会えるだなんて、思わなかった。

「お?そっちは烏野のチビマネちゃん達じゃん」
「シャス!」
「ぶっ…なんでまだ体育会系?」

目の前で、黒尾さんが、笑っている。え、なにこれ、現実?やっちゃんは気合の入った挨拶だけしていつの間にか隣にいないし、気を利かせてくれたのかもしれないけどまだ心の準備ができてないよ…!

「やっぱ女の子は変わるねぇ、綺麗になっちゃって」
「お、お久しぶりです…!黒尾さん、も!か、かっこよい、です!スーツ似合ってます!」
「え?いやぁ〜そんな褒められたら照れちゃうわ〜」
「はぁああかっこいい…色気がすごい…」
「…ソレ、俺に言っていいやつ?」
「は、え、あ…!!ココロノコエデス…!」
「ぶふっ…くく…おもしれぇ〜」

黒尾さんが笑ってる、眩しい。淡い初恋の記憶として封印していた思い出が、一気に蘇る。あの頃はこんなにきちんと話せなかったのに、今黒尾さんと一対一で話してる。夢か、幻なのかな。現実味がない。

「しっかし苗字ちゃんは俺のこと嫌いなのかと思ってたんだけど」
「え…ええ!?どうして!ですか!?」
「だって合宿のときとかも話しかけたらすぐ逃げられちゃってたし、烏野のチビマネちゃんズに怖がられてんな〜ってちょっとへこんでたんだから」
「い、いやいやいや!なんていうか、私なんぞが黒尾さんと話すなんておこがましいというか…!恐れ多くて!決して嫌ってなんてないです!」
「あ、そう?」
「そうです!むしろ、」
「むしろ?」
「む、むしろ…」

しまった。勢いで言ってしまったけど、これに続く言葉は。言い淀む私を黒尾さんはジッと見つめていて、今にも心臓が張り裂けそうだ。うるさいくらいに胸が鳴っている。

「あ、そ、そういえば!今日、11月、17日です、ね」
「え?」

さすがにこの話題転換には予想しなかったのか、黒尾さんも少し驚いた表情をしていた。
でも、今これを思いついた私はナイスだと思う。むしろ今言わなくていつ言うの。

「今日!お、お誕生日、ですよね!黒尾さん」
「え……なんで知ってんの?」
「え?あ、え…合宿のときに、誰かが教えてくれて…」
「それ、ずっと覚えててくれたの?」
「えっ」
「あんまり話したことない、他校の先輩の誕生日を?」
「………」

やらかしてしまった。黒尾さんの言葉で気付く。こんなの、黒尾さんのことが好きだったと言っているようなもんじゃないか。
こんな、人のことを観察するのに長けている黒尾さんが気付かないわけがない。ニヤニヤと口元を緩ませて私を観察する黒尾さん、と、顔に熱が集まるのを感じて俯くしかできない私。

そこに、スッと差し出された名刺。見れば鉄朗さんの名前が書いてあった。

「今仕事中だけど、夜は空いてっから。もし苗字ちゃんに今彼氏がいなかったら、連絡チョーダイ」
「…!」
「そんときは、苗字ちゃんに誕生日祝ってもらいますから」

そう言い残して、最後に私の頭にポン、と大きな手を乗せて去っていく黒尾さん。いつかも見た、大きな背中。
そこに届くはずもなかったのに、今私の手の中には彼の連絡先がしっかりと握られている。

それが未だに信じられなくて。とりあえず今、私に、とんでもないことが起こっていたんじゃなかろうか。

「ややややっちゃん…!どうしよう…!」

夜まで、もう時間ないよ。



20.7.13.

- ナノ -