短編

終わらない僕らの今日




黒尾って結構タイプなんだよねえ、


「………は?」



私が呟いた言葉は、それを宛てた本人へとしっかりと届いたようで、その黒尾はというと不意を突かれたみたいな顔で固まった。

ああ、その顔だいぶレアじゃない?


「なに告白?」
「まさか」
「ちげェの?」

「うーん…」


ハッキリとは答えてやんない。
私はいつもこの男に振り回されてばっかりなんだから、たまにはコイツも振り回されればいいんだ。なんて、出しきれない勇気に言い訳。


「告白といえば告白だし」
「え、」
「告白じゃないといえば告白じゃない、かな」
「なんじゃそりゃ」


私と黒尾はただのクラスメイト、以上ではあると思うけど、恋人ではない。所詮仲の良い女友達止まりだ。我が校で強豪と言われるバレー部の主将をしている黒尾は、毎日部活に明け暮れて彼女こそいないものの、大変モテる部類に入る。
イケメンとまではいかないけど整った顔立ち、男子高校生の平均よりもずっと高い身長、大人びた風貌と年相応に仲間とふざけているそのギャップ─────全てが黒尾鉄朗という男をプラスに見せているように思えた。

そんな黒尾と良好な友好関係を築いている私も絶賛片想い中。いつものように休み時間で隣同士の席に座ってどうでもいい話をしている中で、言ったのが冒頭の言葉だった。

なんにもない風に言ったけど実は心臓はバクバク鳴っていて、私は必死にいつも通りの顔を取り繕っているだけで。だって異性の好みの話とかになったから、今までそんな色気のある話になったことなかったのに、とか。言い訳ばかり並べても全部心の中だから無駄なんだけれど。


少しでも意識したりしてくれないかな?


これこそが私の意図だ。


「苗字、顔真っ赤なんですケド」
「!」
「…まじ、勘弁してくんない?」


落とされた言葉に、ぐ、と喉がなった気がした。取り繕えてなかった。そしてそれを見た黒尾、は。

じわじわと、ゆっくりと、でも多分実際の時間にしてみればほんの一瞬で目に涙が溜まるのがわかる。
やだ、私なんでこんなどうでもいいところで試すようなこと言っちゃったの。今の黒尾は良い方に捉えられる声のトーンじゃなかった気がする。全然周りに人いるし。笑え。冗談に持っていけ。でも黒尾嫌な顔してたら、私本当に泣いちゃうかも。

いろんな感情が一気に自分の中を通り過ぎていくような気がした。


「あ、ちょ、苗字?」
「…なに?え、冗談だよ、本気にした?黒尾すぐに反応してくんないから変に照れちゃったじゃ、」


ん。最後まで言わせてもらえずに、私は教室の外に連れ出された。黒尾に腕を引かれて、ずんずんと進んで、いやもう授業始まるとかそんなこという雰囲気じゃなくって。
着いた先は屋上で、そこの扉を潜った瞬間に授業開始のチャイムが鳴った。


「なになにどうしたの、黒尾」
「だって苗字泣くと思ったから」
「泣かないよ、なんで」
「なんで泣きそうなってんの?」
「…泣かないってば」
「嬉しかったんだけど」


見上げた黒尾は笑っているのか困っているのかかなんなのかよくわからない、変な顔をしていた。


「さっきの話さ、」
「うん」
「俺も苗字結構タイプなんだけどって言ったらどうする?」
「、え?」
「ちなみにこれ告白な」
「え!?」
「さっき苗字が言ったやつ、どういうノリで言ったかわかんなかったから反応に困ったんだけど。本気だったら嬉しいなって、思うんですけど」
「えぇー…」
「そのへん、どうっすか?」


なにこれ。なんだこれ。目の前の展開は思っていた一歩も二歩も先を行っていて、着いていけない。私は黒尾との関係をどうにか少しでも変えたくって、それであんな無謀にも試すような風に言ったのだけれど、黒尾はそれが本気だったら良いと言っている。のか。え、うそ、え?


「まぁその顔見たら大体わかるけどな」
「え、」
「見ないでもわかってたけど」
「なに、それ」
「顔、真っ赤」
「〜〜〜〜〜っ」


だから何なんだ、この男は。やっぱり私はまた黒尾に振り回されちゃってる。さっきまで、ちょっとこれ脈なしどころか嫌われるのかと早とちりしちゃったかと思ってたのに。ほんとにそれは早とちりで、こんなの、まるで黒尾が私のこと好きみたいな─────


「いやァ俺から言いたかったのに、お前、あれは焦るって。なにあんなとこでぶっこんできてくれてんの」
「だ、だって、ああ言ったら黒尾ちょっとは意識してくれるかなって」
「、はぁ!?お、前…俺の気持ちわかってなくてあんなこと言ったの?」
「えっ!?」
「思ってたより鈍感かよ…」


呆れた風に黒尾が笑う。


「じゃ、ちゃんと言うけど」
「、」
「好きです。苗字のことが」
「うう…」
「友達辞めて、俺の彼女になって」
「私も、黒尾、好き…だよ」



聞くと、私は一方的に片想いしてたつもりだったんだけど。黒尾的にはお互いもう言葉にするだけ、みたいな状態を楽しんでたつもりらしくって。そんなの知らないよ、って背中を叩いてやれば、いつものわっるい顔で笑うから、それすらも格好良くて。少し前までは思いもしなかったことが現実に起きていて、私の顔は火照るばかりなのに、黒尾はというと満足そうに笑ってる。


「むかつく…」


だからなに笑ってんの!!




2019.11.28.
title by コペンハーゲンの庭で

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