青と暗闇の眼

視界を閉ざす紫紺を解けばそこには在るべきものが無い。
白い肌に浮かぶぽっかり空いた暗闇。
片眼ではこちらを見つめる我がいるというのにここには何も無い。
静かな空虚がどこを見ることも無くただそこに在った。
「気味が悪いだろう」
うすら笑う男の残った片眼が笑う。
頬に寄る小皺をそっと撫でた。
「格段驚くほどでもないわ」
「へぇ」
それは意外と言う様に男は我を見る。
淡く鈍色を含む青い眼。
幼き時と印象が少し変わったのはその目であらゆるものを見てきたからであろう。
触れる体も今はとても大きい。
瀬戸海とはまた違うどこか郷愁を誘うような光沢ある青色が揺れている。
思わず触れそうになれば瞼がそれを邪魔した。
「あっぶねぇなぁ。もう一個も抉っちまうつもりかよ」
「そのようなつもりはない」
けれどそうなりそうになったのは確かだ。
閉じられた瞼の片側でやはりこちらは空虚のまま。
色を映すことも無く、形を映すことも無く、何も無く、けれど在る。
不可思議なその存在にゆっくりと指を這わせた。
「なんだあ?」
「……少し黙っておれ」
本来ならばぎりぎりまで眼球が収まっているだろう縁をなぞり上げていく。
日の輪を描いて今度は少し中へと指を入れてみる。
「んん?」
「痛むぞ?」
「いーや。ただちょっとムズムズすらぁ」
「そうか」
痛まぬのならばもう少し弄んでもいいだろう。
指を抜き、くっと顔を近寄せる。
「おい……ッう……」
空虚な穴に赤い肉片。
滑った舌で同様に縁をなぞり、そして奥へ。
ぽっかり空いた空虚は当たり前だが何もなく、そして味も無い。
仄かな塩気は人の体なら当然のことででも探る内に感ずるどことない甘味ははてどうしたことだろう。
何も無い眼孔に唾液が溜まっていく。
「おい……あんた……」
眼孔の縁から零れ落ちる唾液を舐めとり、そのままうるさいその声も舐めとる。
意固地な口も舌先で溶かして行けばやがてはその場を明け渡す。
熱い交わりを息の根を止めるように続ければ唾液を垂らす眼孔のその片側で鈍色の青がぼんやりとした潤みを持っていた。
「いきなりどうしたんだ、あんた……」
続くその声も絡め取ってさらには深く喰らいつく。
どうしたかと問われても答えはなく、言うなれば衝動であり、戯れ。
だがおそらくはきっと惑わされたのだろう。
この鬼子の持つ不可思議な青と暗闇に――。


(喰らわれたのは誰か)



アニキの眼帯の下をあれこれ妄想していたら出来た代物。
オッドアイも捨てがたいけれど全く無くてもいいな…!とか。
お目目のお話し好きです。ナリ様ちょっとご乱心。


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