星に願いを

「ねぇ、別れよっか」
「は?」
耳を疑うような言葉に思わず聞き返した。
「あたしたち別れようよ」
「何で?」
「聞かなくてもわかるでしょ?」
「……」
わからない。
別れる理由など見当たらない。
「ねぇ、いいでしょ?」
黙る俺に別れを促すベイ。
「俺はお前のこと好きだけど」
「そうね、あたしもあんたのこと大好きよ」
「なら別れる必要ないだろ」
「サッチ、本当にあたしのこと好き?愛してる?」
「愛してるよ」
「そう」
まるで納得していない口調。
どうして今さらこんなこと言い出すのだろうか。
「好きなのはこの青い目?」
黙ったまま反応を窺っているとベイの唇が動いた。
「それともこの唇?」
「もしかしてあの鳥の羽ようになびく髪かしら?」
“鳥”という言葉に心臓を鷲掴みにされた。
ベイは静かに俺を見ている。
「あたしはあんたを愛してる」
告げられる愛の言葉。
けれどそれはなんの情感もない。
「でもあんたが愛してるのはあたしじゃない」
続く言葉にもなんの情感もなかった。
「別れましょう」
「ああ……」
引き留められないと知った。
いや、引き留める権利などなかった。

別れ話が済むとベイはオヤジのところへ行った。
オヤジに酌をしつつ楽しそうに会話していたがきっと俺とのことを話していたのだろう。
一瞬複雑そうな顔でオヤジが俺を見た。
何も言わなかったけれど。



日が暮れてベイも帰り、誰もいない甲板で寝っ転がって星を見る。
北空の星は空気が澄んでいてとても綺麗だ。
星を眺めながら頭の中では昼間のことが思い返される。

愛してたのは本当だった。
本当に愛していたんだ。
それは嘘じゃない。
なんの感情も持たない女とずっと一緒にいるなんてことは出来ない。
だから本当に愛していたんだ。

でも俺の中心はいつでもあいつだった。



ベイに初めて会ったときのことはよく覚えている。
初めて顔を合わせて目を見たとき思ったのはあいつのこと。
同じような青い瞳を食い入るように見つめたのを覚えている。
垂れ下がった形も眠たそうなあいつの目を思わせた。
そしてふっくらとした唇。
言葉を交わす度に動くそいつをあいつのものと重ねた。
なびく髪がまるで不死鳥の炎のようだと言ったこともあった。

やがて傘下となったベイに告白されて俺は頷いた。
断る理由がなかったからだ。
事実ベイに惹かれていた。
たが皮肉なことに惹かれた理由はベイの言うとおりだった。
俺はベイの中にあいつの姿を映しこんでいたんだ。

「別れたんだって?」
「まぁな」
いつの間にかマルコが現れて上から俺を覗き込んでいた。
「理由はなんだよい?俺はてっきりお前のガキの姿を見れると思ってたのによい」
「ハハッ」
まさかお前が原因だなんて言えない。
「あんないい女逃してどうすんだよい」
「ならマルコが付き合ってみるか?」
何を言ってんだろうか、俺は。
「お前はそれでいいのかい?」
「付き合うのがお前ならいいさ」
あんな別れ方をしてこの口は何を言っているのだろうか。
「そうかい。けどそんな風には見れねぇなぁ」
本当にいい女なんだけどねい。
そう言ってマルコは笑った。
「そうか」
マルコの答えにホッとしている自分がいる。
そして同時に“いい女”という言葉に嫉妬した。
この想いはどうしようもない。
「さて、もう遅いけどどうするかい?」
何か言いたげなマルコの言葉に首をかしげた。
「いい酒が手に入ったんでねい。寂しい独りもんに分けてやろうかと思うんだが」
マルコの言葉に驚いて思わず身を起こすと額に衝撃が走った。
「おい、いてぇな!」
「行くよい」
弾かれた額を擦りながら立ち上って先を行くマルコを追う。



“告白しちゃえばいいのに”

去り際にベイが言っていた。
けれど告白という選択肢は俺の中にない。
この想いは告白してどうにかなるものではないのだ。
そもそもマルコとそういう関係になりたいのか俺にもわからない。
嫉妬はするけれど独り占めしたいわけじゃない。
ただ誰よりも大事なんだ。
誰よりも幸せになって貰いたいだけなんだ。
幼いころから知る誰よりも一生懸命なこいつに。

空に輝く星の一欠けらが海に向かう。
こんな俺に付き合ってくれた彼女に俺よりも素晴らしい相手が見つかることを祈った。


(何してんだよい、サッチ)
(ああ悪い今行く!)
(空になんかあったのかい?)
(流れ星だよ)
(何か祈ったのかい?)
(ああ、幸せをな)



なんでしょう。
サチベイのつもりがサチマル風味に。
結局サチマルが好きなのでしょうか。
マルベイ好きの方に謝ったほうがいいですかね(^^;)
サッチがちょっとひどい男に。
ベイちゃんの顔のパーツとか髪とか見てマルコに似てるかなと思ったらこうなりました。
お肌もすべすべしてそう。
かっこいい女性大好きですw


[ 2/7 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -