幸せな日

誕生日と言うのはその相手がこの世に生まれた大事で大切な日。
特別なごちそうと、大きなケーキにロウソクを刺して、歌を歌って盛大に祝って。
気持ちを込めたプレゼントを贈るもの。
モビーでは家族が多いから誕生日なんて毎日のようにあって、当日は細やかなお祝いだけで終わることがほとんどなのだけれど、隊長陣とオヤジとそしてまだ小さなマルコの誕生日だけは盛大に祝われていた。
サッチはマルコよりも少し遅れてこの船に乗ってきて、サッチもまたマルコのように小さい。
マルコが6歳、サッチが8歳の時が出会いだった。
始めは不機嫌そうな顔ばかり浮かべるサッチにマルコもびくびくしたものだけれど、だんだんと打ち解けて、仲良くなって、今ではマルコはサッチのことが大好きだった。
どのくらい好きかと言うとサッチがお腹を空かせていたらマルコの大好きなお菓子を全部あげてもいいくらい。
サッチが寂しかったならいつも一緒に寝ているオヤジの寝床をサッチに譲ってもいいくらい。
サッチがいると今まで以上に毎日が楽しくて、面白くて、幸せで。
マルコはサッチが大好きだった。
そんなサッチとの付き合いももうすぐ一年目を迎える。
サッチの誕生日はサッチが乗船する少し前の事だったらこれがこの船での初めてのサッチの誕生日だ。
お祝いの用意はもうほとんど出来ている。
隊員たちはプレゼントをこっそり隠し持っているし、料理長たちも明日の祝宴の用意で大忙しだ。
厨房からはマルコとサッチが大好きな甘い匂いが漂っていた。
目に映るのはサッチが大好きだと言っていた食材ばかり。
それを鮮やかに調理していくコックたち。
そしてマルコもそんな彼らに混じって厨房に立っていた。
これも大好きなサッチにプレゼントを贈るため。
何をプレゼントしたらよいか散々悩んだマルコはようやく自分も大好きなお菓子をサッチに作ってあげることに決めた。
ピンク色でモビーのクジラのワッペンのついたエプロンを着て、髪が散らないように三角巾を締めて、調理場に顔すら届かないマルコのために台座として樽も運んでもらった。
大きな樽の上に立ちながら小さな手が一生懸命、目の前の材料と格闘する。
マルコが作るのは子供でも簡単に作れるカップケーキだ。
まずは分量通りに材料を量る。
分量が変わると出来も変わってくるからきちんと量るようにコックに言われたので慎重に量りに掛ける。
目的の数字のところに針が行ったり来たり。蒼い目がそれを追いかける。
時間を掛けながらもコックの言う通りの分量にきちんと量ることが出来た。
粉に塗れながら篩もかけて、上手に割れなくて混じってしまった細かい殻は取り除いて卵も用意した。
周りがその様子をハラハラしながら見つめているとも知らないでマルコは混ぜ合わせた生地をカップへと流し込んでいく。
とても器用とは言えないマルコはあちこちに生地を零してしまったり、手も汚れたけれど、すべての過程を終えると満足そうに笑った。
明日主役のサッチは厨房には入れない。
今日は一緒に遊べないとマルコに告げられたサッチは今どこで何をしているのだろうか。
このカップケーキを喜んで食べてくれるだろうか。
オーブンの熱でじりじりと焼かれていくカップを見つめながらマルコは明日と言う一日を想い、胸をときめかせた。



「サッチ!誕生日おめでとう!」
朝、まだ陽も昇らぬうちにマルコはサッチの部屋の扉を叩いた。
まだ眠いのか眼を擦りながらベッドから起き上がろうとするサッチを待たずにお祝いの言葉を投げかける。
「うん……マルコ?」
「これプレゼントよい!」
やっとベッドから起き上がったサッチの手に出来上がったカップケーキの包みを渡す。
可愛いひよこ柄の袋に赤いリボンが掛けられたプレゼント。
それを見てようやくサッチはマルコがこんな朝早くに訪れたわけを知った。
「……開けていいのか?」
尋ねるサッチにマルコは嬉しそうにコクコクと頷く。
マルコが頷くのを見てサッチは赤いリボンを引き、ひよこ柄の包みを開いた。
「……美味そう」
それは決してお世辞ではなかった。
マルコがサッチのために一生懸命作ったカップケーキはオーブンでこんがりと焼かれた後にキラキラとしたアザランやカラフルなチョコを塗されてそれは可愛く仕立てあげられていた。
開けた包みの中から甘い香りが溢れる。
「ねぇ、食べて?」
「うん」
マルコに言われてサッチはその一つを取り出して齧り付く。
ふんわりした生地が口の中に転がり込み、甘く優しい味が舌に広がる。
カップケーキを食べるサッチを見るマルコの目はとても嬉しそうで、けれどその指を見ると何故か絆創膏がいくつか貼られていて、頑張って作ってくれたんだなぁとサッチは思う。
昨日作ってあったカップケーキは出来立てのように温かいままとはいかなかったがそれでもサッチは口にするカップケーキの欠片に確かな温かさを感じた。
マルコが自分のために一生懸命作ってくれたカップケーキ。
残りも大事に食べようと思った。
「すごく美味しい。ありがとな、マルコ」
「えへへっ……」
照れくさそうに笑うマルコ。
なんだかとても可愛かった。
「あ、サッチ……」
「ん?」
マルコがサッチの手を引いて、自らの方に引き寄せる。
何事かとマルコの方を見やるサッチのその頬にちゅっという小さな音を鳴らしながらマルコの小さく柔らかな唇が当たった。
「お祝いのキスよい」
マルコは微笑んだがサッチの顔は一瞬にして赤くなった。
「サッチ?」
「な、なんでもない!」
サッチの様子のおかしさに気付いたマルコが不思議そうに首を傾けるがサッチは何でもないと懸命に首を振る。
けれど心の中では慌ただしく心臓が跳ねていて、すごく恥ずかしかった。
そういえばマルコはお祝いごとの時、オヤジや隊長たちによくキスをしていたことを思い出す。
でもまさか自分にもしてくれるとは思わなくて。
マルコにしてみれば何ともないことなのだろうけど、長く船にいる間にサッチはマルコのことを女の子として見る様になっていて、マルコのことが大好きで、それで愛しているという言葉が一番ぴったりくるのだということももう気づいていたから突然受けたキスにすごく動揺してしまった。
嬉しい、恥ずかしいけど、すごく嬉しい。
「マルコ」
恥ずかしさを抑えつつ、マルコの方に向き直るとマルコは相変わらず無邪気そうな顔を浮かべていて。
「なぁに?」
「……お祝い、ありがとう」
それだけ言うのがせいいっぱいだった。
サッチの言葉を受けてマルコはまた嬉しそうに笑みを浮かべる。
「これからもよろしくねい、サッチ」
にっこりと自分に笑いかけるマルコにサッチは今までにない幸せを感じた。


(Happy birthday Thatch!☆)



一日遅れてのサッチ誕!
おめでとうサッチ!!
今回は何故かロリショタに…。
でも可愛いちびっこたちは大好きです!
鈍ちんなロリマルコちゃんにサッチは苦労すると思います^^


[ 12/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -