その瞳に捕われる(1/2)

「ぐっ…」
首に回された手に、ぎゅっと力が込められ意識が霧散していく。ざわつく自らの血の流れの音すら遠くなってきて。暗くなりだした視界が、手の先の人間の口元が緩く弧を描くのを確かめると、どさりと体を投げられた。
「はっ!う…げほっげほっ」
急に与えられた酸素は、少しずつ奪っていた感覚を体に一気に押し込めてきた。突然の事に咳き込み、目尻に涙が溜まっていく。
「いいねぇその顔。すげぇそそる」
「てめぇ…サ、ッチっ」
新月の夜より深い闇を背負う男は、ちろりと口なめずりする。
「何度挑もうが、あんたに俺は捕らえられねぇさ…中将さんよ」
情けなくうずくまる俺に視線を合わせるようにしゃがみこむサッチの瞳は、背負う闇よりももっと暗い、光を一切受け付けない漆黒。
「ああ、違った。捕らえるんじゃなくて、解放してくれるんだっけ?」

出会ったら最後、生きることを諦めろ。
白ひげ海賊団4番隊隊長・闇のサッチ。
世間から誰よりも恐れられるこの男に初めて会った時に思ったのだ、これはこの男の真実の姿ではないと。何故そう感じたのか分からない。だが、俺の口は勝手に動いていた。


「お前を…闇から解放してやるよい」
何度同じ言葉を告げただろうか、何度同じ姿を見たのだろうか。目を見開き、大笑いする姿を。
「本当に懲りねえなぁ、あんたも。じゃあ俺も解放してやろうか、あんたが背負う正義から」
闇が滲み出す手が肩に乗せられ。
「知ってるんだろ?海軍の中には、俺達海賊よりあくどい奴が沢山いることを。その二文字が、飾りだってことも」
深い、深い底無しの闇。ずるりとその闇に引きずり込もうとする手を、俺はぎゅっと掴む。
「これは海軍が掲げる正義じゃねえ。俺自身が掲げる正義だ。腐った野郎なんざ知ったことじゃねえし、俺は俺の信じる正義を貫く」
「…それで、海軍のあんたが、海賊の俺を助けてくれると?」
「そうだよい」
瞬間、体ごと飲み込むように広がった闇に、思わず目を閉じる。

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