溶けて消える希望

今日から働く子 まさかあのめそめそだなんて!!驚いた!!よろしくね?
すっ、と伸びた白くて長い腕に何故だろうか?恐怖を覚えた。
口をへの字に曲げた黒が「おや?クダリ、お知り合いでしたか」と帽子を被り直した。
クダリと呼ばれた白は「やだなぁ、ノボリ同じ学校だったじゃあないか」とノボリと呼ばれた黒を見た。
なまえは頭の上を行き来する名前に聞き覚えがあった。
それはかの有名なサブウェイマスターとしてではない。
家が近所でよく遊んで貰っていた近所に住む双子のお兄ちゃんの名前だ。
大きくなるとなまえは二人が行った学校へ進学したので後輩でもある。
なんてこった。
まさかこんな所で再開するなんて。
最悪だ。

「ああ、なまえ様ですね、覚えております。随分とお綺麗に成長されていたものですから、気がつきませんでした」

何せわたくしが最後になまえ様を見たのは随分と昔の話ですから、とノボリは付け加えながら、昔を懐かしむように瞼を閉じた。
そんなノボリを置いてクダリは笑顔で。

「僕、なまえ分かった!!すぐ分かった!!だって なまえ 変わってない」

変わっていない。
その言葉にガクガクと脚が震えるのが止められなかった。
(やだ、私、変われてない?まだあの時と同じ…)

「なまえ 昔から眉毛 こんなだった!!」

クダリは両手の人差し指をハの字に切る。
何だ眉毛の話か、と安堵したのもつかの間、ハの字に切ったクダリの指がそのままなまえの両目の前にピタリと止まった。
あまりに突然でなまえは息を一瞬忘れてしまった。
「え…?」と口から息のような疑問が摺り抜ける。
目を潰されると思ったなんて口が裂けても言えない。
なまえの目とクダリの指の距離で言うなら5cm程。
あと少し手を伸ばせばこの目にクダリの指は触れてしまう。
一体この人は何がしたいんだ。
なまえがあの、と声を出そうとした時。

「それに 目が一緒 あの時の弱虫の目 そのまま」

ニヤリ、ニタリ、はたまたニチャア?
そんな擬音がピッタリな笑顔だ。何を間違えても天使の笑顔とは言い難い。
今にも涙腺が崩落してしまいそうだ。
怖い、この笑顔がこの白色がこの瞳がこの人が。
倒れてしまいそうな身体を必死に支え、「ええ」とも「はい」とも言えない曖昧な相槌を返した。
途中、呆れたノボリが「クダリ、なまえ様が怯えております」とため息混じりに言ったが、クダリは聞く耳も持たず、なまえに話続けた。
何て言っていたかは緊張からか覚えていないが最後にとびきりの笑顔で

「めそめそ、あ、なまえって言った方がいいかな なまえは僕の下で いいよね!!」

と言ったのだけは鮮明に覚えている。
新しいこの職場。絶対に楽しいに違いないと思っていたが出鼻を挫かれただけではなくそのまま踏み付けられたみたいな気分だ。
あの人が居るなんて、絶対に楽しいなんて程遠いじゃあないか。





20121023
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