「ほら、ここがお城だよ」

零と名乗ったその少年は、しげるが喋れないことがわかっていても、首の振りで答えられるようにわかりやすく話をしてくれました。
しげるの身元がはっきりしないことや、しげるが賑やかな場が苦手ということから、零は大々的にしげるを連れ帰ることはしませんでした。城の裏口から中へ入り、まず濡れた服をなんとかしようということで零が城にあるタオルと服をしげるに渡しました。零はこの短時間でしげるの嗜好を把握したらしく、服は小綺麗ながらもシンプルなものでした。

着替え終わったしげるが部屋から出ると、そこには零ともう一人の人間がいました。その人間こそ、しげるが助けた人間――この国の王子である、カイジでした。

「君が助けてくれたんだよな、本当にありがとう!」

ふる、とアカギは首を振ります。声については零が話しておいたらしく、カイジはその動きを謙遜と受け取りました。実際しげるのそれは謙遜であったので、問題なく意思の疎通をすることができたのです。

しげるは改めてカイジを見ました。
あの人間がこうして目の前にいて、話し掛けてくれている。それだけでしげるの心は知らず知らずのうちに満たされていくのでした。

こうして城へ迎えられたしげるは城で暮らすこととなりました。城で暮らしていると、時々仕事をしているカイジを見ることが出来ます。一生懸命民のために頭を悩ますカイジを見て、しげるはますますカイジのことを想うようになりました。

しかししげるの想いはカイジに伝わりません。
声が出ないのですから、その思いの丈をカイジに話すことができないのです。
それに伝えたとしてもカイジとしげるは同性であり、カイジは王子でしげるは身元不明(人魚)です。カイジが応えてくれるかどうか、応えてくれなかったにしても側にいられるかどうかはしげるにはわかりませんでした。

そうして焦るしげるを嘲笑うように、時間は確実に過ぎていくのでした。
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