浜辺に人間を引き揚げると、人間の顔がしっかり見えました。
黒髪は男性にしては長めで、太い眉、そして頬に傷跡があります。手などにも傷跡がありました。しげるが人間から水を吐かせると、茂みのほうからガサガサと音が聞こえました。人間のシルエットとしげるは判断します。しかも男の人も意識を取り戻しかけているらしく目を開こうとし始めました。

(まずい…)

一条の言葉を思い出し、しげるは素早く海に逃げました。人間に見られてはならないーこれは人魚の間では絶対の掟なのです。
岩に隠れて見ていると、個性的な女の人が、倒れている男の人を見つけて駆け寄りました。すると男の人の意識が戻ってきているようで、女の人は救助を求めてまた別の人間を呼んだようです。
これできっと男の人は助かるでしょう。それを確信したしげるは海の中へ帰っていきました。




初めて海から出た日から数日。
しげるは溜め息をついていました。

「おまえが溜め息とか気持ちわりーからやめろよ」
「…おんなじような顔して何言ってるの」
「おんなじよーな顔だから言ってんだろうが!」

隣には平山がいます。しげるは平山に、溜め息の原因となっていることを話すことにしました。すると何を感づいたのか一条がニヤニヤしながら冷やかしにやってきたので、二人に話すはめになりました。
見られてはいないが人間を助けたこと、その人間の顔が頭から離れないこと。また、会ってみたいとおもったこと。

「それあれだろ、好きなん」
「平山!!!」

一条が平山の発言を全力で止めました。そして平山の耳元にずいっと近より、焦ったように捲し立てます。

「おまえよく考えろ!人間と人魚以前にオス同士だぞ?!そんな希望持たせるようなことを言うな!」
「明らかにあれは好き以外のなにもんでもないだろ!」
「それくらいわかる!!」

「いいよ、知ってる」

しげるの声に二人はそろって顔を向けました。

「でも会いたい、できたらもう一度会いたい」

しげるの目つきが今までと違っていました。今まで海のなかで暮らしていた時には見せなかったような、感情を投影した表情でした。

暫く間をあけたあと、一条が諦めたようにゆっくりと口を開きました。

「海からでてその人間と会えるかも知れない方法…、無いことはないぞ」


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