はぁ、とアカギは小さく溜め息を漏らす。

「まあここまでされたのは初めてだけど。俺が思っていたのはね、カイジさん」

アカギの顔から、表情が消える。少しの感情もこぼさない、冷たく固められたような顔。淡々と話すアカギはからくり人形のようにも見えた。

「あんたも身体目当てなんだろうって」

カイジは目を見開いた。どこをどうしたらそうなってしまったのか。そんなんじゃねえ、と食って掛かろうとしたが。

(…待てよ、)

よくよく考えれば無理もないことかもしれない。一度声をかけて以来、明確な理由も告げずに自宅に上げ、急速に距離を縮めた日々。何人もの人間に言い寄られてきたアカギからしたら、不信感を持つには十分すぎるのだ。

「俺が風邪を引いたとき、カイジさんは答えてくれなかった」

───…カイジさんも、…
アカギの悲しげな表情を思い起こす。

「何で今まで手を出さなかったか知らないけど、俺はそう思ってた」

遅かった。遅かったのだ。
この気持ちに、好きという名前をつけるのも。アカギの不安に気付いてやるのも。
カイジはまたぼろぼろと涙を流した。

「でもさ、おかしいな。身体目当てかもしれない、餌付けされてるのかもしれないって思ってたのにここは居心地がよかった。どこかで俺は、それを信じたくなかったのかもしれない」
「…っ、ぅ、あかぎ、」
「それだけ俺は、カイジさんに近寄りすぎた。…あんなのに抱かれるくらいならカイジさんのがいいって、一瞬でも思うくらいには」

そう言うとアカギは静かに立ち上がった。
もうここには来ない、と言って。
カイジはなんとか引き留めようと口を開いた──が、頭が一つの可能性に辿り着く。

(え?…おい、待てよ、それって)

その時、背を向けたアカギは、

「…身体だけ繋がっても、虚しいだけ」

でしょう、までは言えなかった。
小さなテーブルから身を乗り出したカイジに、右手を掴まれたからだ。

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