[12. 罪の代償]

どうして、こんな事になってしまったのだろうか。
今更そんな思いを巡らせても過ぎてしまった事はもうどうにもならない。

「「名無しっ!!」」

名無しの名前を呼ぶ声に、自分とマダラの声が重なる。
ついに、恐れていたこの時が来てしまった。
無情にも貫かれた刀を引き抜かれ、力なくその場に膝を付く名無しの姿に心臓を鷲掴みにされる様な感覚を覚える。
血の気が引く、まさにその言葉通りだった。
仮面は落ち、口の端からは血がゆっくりと流れていた。
傷からは止めどなく血が流れ続け、地面はすぐに真っ赤に染まる。
自身の忍術でどうにか血を止めようと試みてはいるが、チャクラが乱れそれも失敗に終わる。

「名無し!!」

「ぐっ…、はっ、っ…!はぁ、はっ…、大丈夫…」

傷口を抑え気丈に振舞ってはいるが、大丈夫でない事は誰が見ても明らかだった。
応急処置にしか過ぎないが、手持ちの止血剤と増血剤を口に含ませて無理矢理に飲ませる。
イズナがやられたあの時と同じ映像が頭に流れる。
柄にもなく心臓の鼓動が早くなるのを感じ、無意識に名無しを支える手に力が入る。

そんな中、急に大声を出す柱間の声に気付き、名無しから視線を逸らせば少し離れた場所で柱間が扉間に食って掛かる姿が目に入った。

「扉間っ!!お前、分かっているのか!?」

戦っている時とはまた違う雰囲気の柱間に少しだけ驚く。
名無しも名無しでそんな柱間の声に気付いたのか、自分と同じ様に視線を向けていた。
その間も傷が痛むのか、顔は歪んだまま。

「兄者!いくら女だろうと戦場に出れば性別など関係ないだろう。驚くのは分かるが、そんな事で一族の長がいちいち取り乱すな!」

「違う!オレが言いたいのはそんな事じゃない…っ!!お前、自分が何をしたのか「柱間っ!!止めろ…!私は、お前達の敵だ…っ」

そう叫んだ名無しの言葉は柱間の言葉を遮り、一瞬その場を沈黙が包む。
その言葉に何かを言いたそうに眉間にしわを寄せ、渋い表情でこちらを見つめる柱間の姿が目に入る。
二人の食い違う言葉に違和感を覚えるが、今はそんな事どうだっていい。
柱間もどうやらこちらに攻撃を仕掛けてくる様子はなく、そのまま名無しを抱き抱えその場から立ち去る。

***

止血剤と増血剤を飲ませたが、それでも血を流し過ぎたのか、うちはの屋敷に着いた頃には既に名無しの意識は朦朧としおり瞳は焦点が合っていなかった。
それでも小さく聞こえる呼吸だけがこの世界と名無しとを繋ぐ命綱の様にも感じた。

手に感じる生温かい血の感触がずっと離れない。
治療を受けている名無しの傍らでその様子をただじっと見つめる。
傷は思っていた以上に深く、術で血を止め傷口をなんとか塞いたが油断は許されない状態だった。

「どうにか血は止めましたが、血を流し過ぎており臓器の機能が低下している状態です。増血剤を投与しましたがこればかりは我々にはどうする事も出来ません。
後は名無し様の治癒力に賭けるしかありません…」

「後は俺が看る。お前はもう下がっていい」

血が足りていないのか、白い肌が更に青白く感じる。
普段から身軽さを生かした戦い方をするからか、防具も自分達が身に付けている様な物ではなく、機動力を重視した身軽な物を装備していた。
しかし、機動力は向上する反面、防御力は自分達の半分程しかない。
そのせいか、傷を受ければ今回の様に命に関わる場合もある。
今までにも何度か大きな傷を受ける事はあったが、それでも命にまで関わる様な傷は今回が初めてだった。

細い女の体に似付かぬ数多くの傷。
顔は面を付けているからか傷が無い分、余計にそれ以外の傷が目立つ。
今は少し落ち着き眠ってはいるが、相変わらず呼吸は浅いままだった。

「…お前はいつも何も言わずに一人で全部抱え込む。俺にはお前が涙を流した理由さえ分からん」

治療をしている時も意識は一応あったが、瞳は虚ろで、ただ涙だけが止まる事無く流れていた。
名無しの涙を見たのはイズナが死んだ時以来だった。
あの頃の名無しは一人にはしていられない程に精神的にも弱りきっており、常に誰かが傍に居た。
復讐もイズナの想いを汲み取りどうにか思い留まった。

しかし、それが皮肉な事に名無しの精神的な負担になってしまった。
イズナの死をきっかけに名無しの自身に対する執着心が薄れて行くのを感じていた。
以前にも増して前線に出て戦う様になったり、危険を顧みない戦い方をする様になった。
それはまるで、自分の死ねる場所を探している様にも見えた。

***

何故、兄者があんなにも取り乱したのか理由は分かっている。
自分もまさか女の忍が居るとは思ってもいなかったし、それが仮面の正体だったとは夢にも思わなかった。
「女」を斬った事に対する罪悪感は確かにあるが、戦場に立つ以上は命の奪い合いを覚悟している筈。
ならば、男であろうと女であろうとも関係ない。
殺さなければ、殺される。
敵同士として対立する以上、それが普通だ。

兄者は甘い。
女だろうとも一度、武器を持ち戦えば敵。
しかも、自分と同等に渡り合える程の力を持つ者に対して情けを掛けるなど言語道断。
あってはならない事だ。
そんな事で千手一族の長がいちいち狼狽えていたら、他の者達に示しが付かない。
長と言う立場にある以上、何事にも毅然な態度を失う事は許されない。
それが「長」というものだ。

***

名無しが扉間に斬られてからマダラとは戦場で会っていない。
それが何を意味するのか分からないからこそ、気掛かりで仕方が無かった。

あの時、名無しは扉間に食って掛かる自分の言葉を遮ってまで制止した。
そうしなければ恐らく自分は名無しの最も知られたくない事実を口走ってしまうところだった。
名無しはいつか殺される事を覚悟し、今まで戦場に立っていた。
その思いを自分の一言で無にしてしまう所だったと思うと、そんな自分の浅はかさに強く後悔の念が押し寄せる。

名無しが斬られた時のマダラの様子は、イズナが斬られた時のものと同じだった。
二人の様子を見ていれば、マダラが名無しの事を妹の様に思っている事はすぐに分かる。
そんな名無しを傷付けられて黙っている筈が無い。

「…名無し。今どうしてる?生きているのか…?」

自分の大切に想う者と殺し合いの場に臨まなくてはいけないこの世の中をこれ程恨んだ事は無い。
マダラにも会えない以上、名無しの様子を知る事も出来ない。
やり切れない思いを抱えたまま、時間だけがただ刻々と無情に過ぎて行った。

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