[9. 暁]

「暁」

これが彼らが所属している組織の名前。
メンバーは今までに会った人達以外にも数人居るらしいが、今この場所には居ないらしい。
ここに住む事になり、その旨を彼らのリーダーに伝える為、少し待っていろと言われ今に至る。
ちなみに自分が居る場所は隣の空き部屋でベッドと机、椅子しかない殺風景な部屋。
とりあえず奥にあるベッドに腰掛け今までの出来事を整理する。

(…私は元はこの世界の人間。そして両親の命と引き換えに今を生きている…。命と引き換えに)

一人になり、ある程度落ち着きを取り戻した途端、納まっていた涙が再び流れ出す。
今まで何も知らず生きて来た。

たった一日で色々な事を知った。
自分の事、一族の事、そして両親の事を。
白虎の話を聞いて辛く悲しかった。
でも、自分を心から愛してくれた両親が居たという事に、言葉に出来ない程の暖かい気持ちが溢れた。
自分には愛情を注いでくれた両親の記憶が無かったから。

「お父さん、お母さん…」

真実はとても悲しかった。
でも、この世界に来て真実を知った以上は「今の自分をこれからどう生きて行くか」という事を真剣に考えなければいけない。
いつまでも泣いてなんかいられない。
強くならなきゃいけない。

「ふーっ、…よしっ!」

涙を拭い頬を軽く叩く。
おばあちゃんから与えられた二つの選択肢。
答えはまだ分からないけど、必ず見つけてみせる。

***

リーダーに事の成り行きを簡潔に告げ終わった後、ここに居るメンバーでこれから名無しをどうするかについて話し合っていた。

「さて、報告も済んだ事ですし。イタチさん、これからの彼女の方針はどうされるおつもりで?」

「どうするって言ってもまずは修行だろーが。基礎がなってなきゃ優秀な一族だろうが意味ねーよ」

この世界の常識、情勢などはのちのち教えれば良い。
名無しが苗字一族の力をコントロール出来る様になれば、暁にとっても利益になる。
口寄せの術が出来るという事は、ある程度は白虎からチャクラの話を聞いたのだろう。
ならば、後はよりチャクラを自然に使えるように慣らしていくだけだ。

今ここには自分の他に鬼鮫、デイダラ、サソリ、角都、飛段の五人が居る。
それぞれ分野によって得意不得意はあるだろうが、皆それなりに能力の高い忍達だ。
修行の指導をするには何も問題はない。

コンコン
控えめに扉から発せられる音。
その後すぐに名無しが顔を覗かせる。

「入ってもいい?」

恐らくこれからどうするのかを聞きに来たのだろう。
あぁ、と言葉を返せばゆっくり部屋に入り近くにあった椅子に腰を下ろした。

「わっ!な、何!?」

近くにあった椅子に腰を下ろせば自分の肩から急に腕が伸びてきた。
その腕が自分の肩に回され、すぐに後ろから抱き付かれているという事を理解した。
そして、その後すぐにあの独特な笑い声が聞こえてきた。

「よぉ名無し!俺は飛段ってんだ!よろしくな!それはそーと名無しもジャシン教入んねーか!?」

(…デイダラもそうだったけど、飛段も初対面でも全然気にしない性格なんだ)

頭だけを上に向ければ飛段の楽しそうな顔が見える。
飛段の言うジャシン教がどういったものなのかは分からないが、そう楽しそうに言う飛段の顔をじっと見つめる。
そんなに見つめて俺に惚れたか!?とか色々言っているが、気にしない方が良いのだろう。

そんな状態が続いていると、角都が近付いて来て飛段を投げ飛ばし引き剥がしてくれた。

「あ、ありがとう、えっと…角都さん?」

あの二人とは違い落ち着いた雰囲気の角都。
というより、二人が騒がしいだけなのかもしれないが。
そんな事を考えていると「俺は角都。角都と呼べ」と言葉短くそう言われた。
その後、サソリ、そして一応もう一度イタチ、デイダラ、鬼鮫にも軽く自己紹介をしてもらった。

「さっきも話したようにお前には明後日からは修行をしてもらう。修行の相手は俺達が順番に行う。順番と言っても任務が入っていない者がお前に教える事になるがな」

修行。
まずはこの世界で生きていくための力を身に着ける事が一番最初にやらなければいけない事らしい。

「分かった」

イタチの言葉にそう返しながら頷く。
強くなる。
そう心に誓い明日から始まる修行に向けて決意を新たにする。

しかし、この時の自分はまだ何も知らなかった。
ここは「犯罪組織」暁。
一般常識に縛られる事のない非常識な人間ばかりの集まりだと言う事を。

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