halo/walking on sunshine | ナノ


「いた!わたしのこと覚えてる?」

ちょうど一年後のことである。花火大会が行われる日の昼間、去年と同じように親戚たちの訪問から逃げるように飛び出した暑い外の世界、なにを思ってか足が向いたのはやっぱり祭りの準備をするせわしない声が聞こえるあの神社のあの木陰だった。

青い空も白い入道雲もむわむわとした空気もなにも変わらず、額にじんわりと汗が滲む。そのままこめかみを伝う。急いで漢字の宿題を終え、母さんの目を盗んでここへ来た。明日は花火大会ねと交わした昨夜の会話でぼんやりと去年のことを思い出し、なにか期待をしていたわけではないけれど、去年と同じようにあいつに会えたら面白いと思ったから。そうしたら案の定、あいつはやって来た。

「おまんじゅうの子!」

去年よりも髪の毛が伸びていた。小走りで木陰にきてなんの躊躇も見せず隣に座る。そういえば去年はあまりまともに顔を見れていなくて、こんな顔をしていたのかと改めて思った。眩しい笑顔で久しぶりと言われ、向こうも覚えていてくれたこと、そして同じようにここに足を運んでくれたことが嬉しくなる。自然と口角が上がった。

「おれの名前はまんじゅうじゃねぇよ」
「えへ、名前なんてゆうの?」
「岩泉はじめ」
「はじめ…はじめくん…、はじめちゃん!」
「は!?」

はじめちゃんなんて呼ばれ方は初めてで、ちゃんづけヤメロ!と訴えてみてもあいつはあははとおもしろそうに笑って取り合おうとはしなかった。わたしは名字なまえです、と手を差し出されてしまえば、いくらこれ以上言っても無駄だと気が付いてしまう。なんとなく及川に似た強引さがあったけれど、及川の相手をする時みたいに強く言えないのも結局は俺が折れてやっていたのも、こいつが仮にも女子だったからか、それともこいつだったからか。もう何年も前の自分がなにを考えていたのかなんて忘れてしまったけれど、確実に言えることといえば、このころから俺はなまえの笑顔には弱かったのだ。

「よろしく」

名字なまえ、その名を忘れぬよう、何度も呟く。



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