マッドラブブレイン 朝起きたらゾンビが蔓延していた。 全く見覚えの無い小さな民家で目が覚めた俺は、友人の一人藤内が話してくれたそんな現状説明のお話に目をぱちくりとさせた。 なんか俺がどう頑張っても頑なに起きなかったから命辛々背負って来てくれたらしいけど、ゾンビ? 民家の襖の隙間から外を見渡すと、それはすぐに見つかった。いっぱい居た。 爛れ崩れた肌、虚ろな目、単調な動き。 成る程、確かにこの前文献で見て皆で盛り上がったゾンビなるものそのものだ。 俺は神妙な面持ちで、すくと立ち上がる。 「ちょっと行って来るわ」 「何言ってんのナマエ!危ないよ!」 必死に止めて来る数馬と同様の咎めるような視線達に、俺は騒ぐ心臓を落ち着かせるように深呼吸し、皆の不安を払拭させるよう親指を立て笑んだ。 「だってあのゾンビさんがすぐそこに居るんだぜ?!もっと近くで見たいし触りたいし可能なのなら会話だってしたいね!」 「ダメだ、こいつ俺等の予想を上回るバカだ!!取り押さえろ!!」 「な、何?!おい左門、三之助、やめろ!こ、この!!」 「クソッ、何でこの非常事態に奇行に走る仲間を止めなきゃなんねぇんだ!自重しろ!」 「やだー!!ナマエゾンビさん触るのー!俺ってば生まれつき自重したら死ぬ不治の病なの、やだー!!」 「煩ぇだだっ子!!自重しないで突っ込んだ方が死ぬんだよ!!」 作兵衛がケチなせいで、俺はあっさり迷子常習犯の二人に縄でぐるぐる巻きにされた。俺迷子ならないよ?!縄で縛らなくてもいいんだよ?! 「いいか、お前がぐーすか幸せそうに寝てる間に、学園の皆ゾンビと戦って…たぶん、半分ぐらいは仲間にされた。遊びじゃねぇんだ」 「えっ、食満先輩とかも?」 委員会の先輩の名前を呼べば、作兵衛は黙って、それから首を横に振った。俺はぴしゃんと雷に打たれたような衝撃を受ける。 「それ、作兵衛は見たの…?」 「……ああ」 信じられない。まさか、そんな。あの食満先輩が…? 「いいなー!!」 「は?」 俺のキラキラした顔を見ながら、何故か皆固まった。 「食満先輩のゾンビ姿とか超見たい!えー、どんなんだろ?!狡っ!見たとか狡っ!!」 「…ああ、もう不謹慎とさえ言えねぇわ。何だこれ。何なんだこの生命体。皆助けて」 作兵衛が虚ろな目で周囲を見回すと、皆サッと視線を逸らした。…はっ! 「今、作兵衛ゾンビっぽい事した!なるの?!今からゾンビなるの?!」 「ならねぇよ!!」 殴られた。痛い。作兵衛すぐ暴力振るう。 「しかしそんな雑談の間に華麗にも縄抜けを果たした優秀なこの俺!!俺を止められるものはもう居ない!待っててゾンちゃん今行くわ!!」 「って夢を見てたんだけど」 「ざけんな、俺が可哀想だろ」 殴られた。痛い。作兵衛すぐ暴力振るう。 「もうちょっとでゾンビさんと対面だったのに、作兵衛何で一番の盛り上がり所の前に起こすの?!空気読んでよ!!」 「その台詞はお前にだけは言われたくねぇし、むしろゾンビに食われるの阻止してやったの感謝しろ!夢の中の俺にもな!!」 やだなー、感謝してるよ。作兵衛が止めてくれるから俺はこうして思う存分自重せずバカ言えるわけだし。 現実なら俺、作兵衛を残して死にやしないって。もう。 だからさ、 「夢の話で泣くなよ」 「うっせ、お前がすぐ命粗末にすっから…」 まあ俺を好き過ぎるそんな君が大好きだから、本当はいつもわざとこうして君を泣かせるんだけどね。へへ、愛してるよ作兵衛。 だからこれからも俺の為に精神擦り減らせてちょーだいね。 |