▼ 恋ってやつは

初めて彼と出会ったのは入学式の日だ。
前日の雨のせいで盛大に散ってしまった桜の花びらが通学路を桃色に染めているのが綺麗で見惚れていたら、ついうっかりその背中にぶつかってしまった。
「わっ」
一瞬、ぶつかったのは壁だと思った。それくらいびくともしなかったから、ずいぶん柔らかい壁にぶつかったのだなとのんきなことを考えていた。
「ん?」
でもそうじゃなくて、見上げた先には背の高いちょっと目つきの悪い男の子。
「ごっごめんなさい!」
「いや、怪我なかったか」
慌てて距離を取るとその男の子はわたしに向き直ってそう聞いた。面と向かってみるとやっぱり大きい。上級生だろうか。
「大丈夫です、ほんとにすみません」
ぺこ、と頭を下げると彼はおう、と答えた。優しい人みたいでよかった、どこに目ぇつけとんじゃとか言われたらどうしようかと思った。
ほっと息をつきながら、それじゃあ、と彼を追い越そうとしたとき、横から「あ」と声がかかる。
まだなにかあっただろうか、もしかして彼の方に怪我をさせてしまったとか?半ば焦りながら顔を上げて、その視界の狭さに一瞬思考が停止する。見えたのはこっちを覗き込む彼の顔と、彼の肘辺りの腕。
「頭に花びらついてっぞ」
停止した思考回路に低い声がとどめを刺しに来たことを、わたしは今でもはっきり覚えている。
それがわたしと彼との出会い。後ろからぶつかってきた上に頭に桜の花びらを乗っけてるようなばかと思われただろうなと落ち込みながらクラス表を確認して、割り当てられた自分のクラスへ向かった。

同じ学校だろうから、もしかしたら校内で会うこともこれからあるかもしれない。
もう高校生なんだからしゃきっとしなきゃ。自分に活を入れ、頬をぺちんと叩いたとき、隣の席の椅子が引かれる音がしてわたしは顔を上げた。

お互い唇を「あ」の形にしたまま固まって、端から見ればなんとも間抜けなものだったと思う。ないとは言い切れない再会が、30分と経たず訪れることになるなんて。
高校生活1日目のそんな些細な2人のやりとりを見ていた人なんていないだろうけど、わたしにとってはとても大切なものになることを、この頃のわたしはまだ知らない。

「これからよろしくな」
それがわたしと、岩泉くんとの出会いだ。

恋ってやつは

些細なことをきっかけに生まれるらしい
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お題配布元「確かに恋だった」
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