(大人表現あり)

あの男はたまにふらりと現れては翌朝また
ふらりと去っていく、音もなく現れて音も
無く去っていく。まるで風に吹かれる、砂
丘の細かい砂の様。

あの男が大犯罪者であって、捕まったと知
ったのはいつの頃だったか。他人に興味の
無いわたしだったから新聞に載るあの男の
姿を見て驚愕したのを覚えてる。
バロックワークスだとか、元七武海だとか
、インペルダウンだとか、普通の平凡など
こにでもいる女のわたしにとっては縁遠い
由々しい言葉と共に載るサー・クロコダイ
ルと言う名があの男の名前だったのだと知
ったところでわたしには、何もなす術がな
かった。


「どうしてここにいるの?」


そんな男、ましてや大犯罪者なんか忘れて
しまいたいと思っていて、やっと忘れかけ
ていた頃に現れた男は以前と変わらぬ冷酷
な表情をしていて、さも当たり前の様にわ
たしの家を唐突に訪ねて来た。

「.....捕まったんじゃ、なかったの、」

「ほう、何度抱いた所でおれの名前にすら
興味を示さなかったお前がそんな事知って
いるとはな。」

「そんなの、お互い様でしょ」

あんなにでかでかと報道されるような大事
件の首謀者で、大犯罪者なんて、思っても
みなかった。
吐き捨てる様に言えば、葉巻を咥える男が
盛大に肺から煙を吐き出した。そして荒々
しくわたしの後頭部を引っ掴み、噛み付く
ように口付けた。まるで耳を塞ぎたくなる
ような羞恥心を掻き立てる水音を立てて、
わたしの口内を攻め立てる男に、わたしは
なす術もなくただひたすらにそれに耐える
だけだった。

「そんな大犯罪者の口付けに股を濡らして
やがる女はどこのどいつだ?」

その黄色い瞳で真っ直ぐに見つめられると
わたしはぴくりとも動けなくなってしまう
のをよくよく知っていながら、この男はそ
んな事を言うのだ。
だからわたしはその男の太い首に腕を巻き
つけ、次は自ら男の唇に噛み付くように口
付けた。











わたしの心を返しては
くださらないのでしょう



「キヨカ」

わたしの上で軽く息を切らす男に唐突に呼
ばれたわたしの名前。驚きに目を見開けば
きれいな黒髪を少し乱した男の薄い唇が軽
く弧を描いた。

「おれはお前の名前なんかとうの昔から知
っている」

そう突き放すように冷たく言い放ったくせ
に、わたしのおでこに優しく口付けてくる
この男を、例え世界の悪を大集結させた様
な大犯罪者であったとしても、わたしはも
う絶対に忘れることなんかできっこない。


「クロコダイル」


黄色い綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめて、わ
たしの中にあるちっぽけな愛しさを懸命に
込めて、その名をこれから何度も呼びたい
と思うのは、贅沢な願いなのでしょうか?



title 失青 2014.11.29

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