指でなぞる。その厚く硬い胸板に彫られたハート型のタトゥーを

「可愛いのがお好きなの?」
「バカ言え」
「ええ、バカ言ったわね」

ククっと喉を鳴らして笑えばギロリと睨みつけれた。ああこわい。
世界中に散在された超新星達の手配書を目にした事が無いわけなかった。”ハートの海賊団死の外科医トラファルガー・ロー”今ではこんな寂れた島の娼婦のわたしでも知ってる程に有名なこの男。なるほど、ハートの海賊団だからハートのタトゥーなのね。
案外安直な考え方なのね、そう思っても口に出すとまた絶対にこの男の機嫌を損ねてしまうのはお見通しだったから、口には出さずまたクククと喉を鳴らして笑っておいた。

「その笑い方耳障りだ、黙れ」

黙れと言われ、返事もせず黙った。そして行為の途中だったことを思い出し、また仕事に務めることにする。捲っただけだった彼のパーカーを脱がせにかかると、意外に素直に脱がさせてくれた。そのパーカーをきちんと畳み、彼が長い脚を投げ出し偉そうに座っているソファの脇に置いた。彼の脚の間に膝まつき、そのハートのタトゥーを次は舌でなぞるも彼はピクリとも反応せず、微動だにしなかった。
誘ったのはわたしの方から。こんな4億越の大海賊がわたしなんか買ってくれる筈も無いとは思いつつも、興味には勝てなかった。この男の手配書を見た時からこの男の事が頭から離れなかった。正直顏はタイプでは無い、わたしは倭の国の侍の様な渋い顏が好きなのに。この男からどことなく滲み出る哀愁にものすごく惹かれたのだ。

「やめろ」

彼のタトゥーだらけの上半身を愛撫しても何の反応もなく、仕方なく次は下半身に移ろうと彼のベルトに手をかけた時頭上から制止の声が降ってきて手を止めて彼の顔を見上げる。
手配書通りの濃いクマのある目元でじっとわたしを凝視する。その目線、背中がぞくりとしてとても心地が良い。

「泣いて嫌がる女なんて抱く気はねェ」
「これは、クセなの。ごめんなさいね、嫌がってなんかないんだけど、どうしても出ちゃうの」

いつもこうだ。仕事中必ず涙が止まらなくなる。でも泣いてる訳じゃない、こんな仕事でもしなきゃなんの取り柄もないわたしが、寂れてるクセに治安の悪いこんな島では生きてはいけないもの。

「てめぇのその耳は飾りか、やめろと言っている。」

わたしが嫌がっている訳でないことを説明すれば大丈夫と思い仕事を続けようとしたのだが、どうやらこの彼は違ったらしい。涙を流しながらこの仕事をすると、喜んでくれる男は大勢いたが彼は例外の様でガッカリした。

「涙は趣味に合わなかった様ね。ごめんなさい、でもわたし仕事中どうしても涙を止めることが出来ない体質で。」

彼はやはり無表情のままわたしを見下ろす。わたしはニコリと笑って彼を見上げた後、少し乱れた服を整えて立ち上がる。

「こんな寂れた宿まで無駄足させたわね、宿代はわたしが出しておくから、どうぞ身なりを整えてから帰られて。なんなら夜も更けているし一晩休まれていくといいわ。」

客に望まれないと分かれば、娼婦は無価値。だからお金も貰わず、すぐさま部屋を出て行く準備をする。でも正直言うとわたしはこの彼に一度でいいから抱かれてみたかった。それだけがすごく残念で仕方ない。
立ち上がり彼に背を向けた途端に腕を強い力で引っ張られる。その強すぎる程の力に抗える訳もなく、わたしは彼の膝へ倒れこみそのまま抱きすくめられる形になる。

「....!」
「てめぇ名前は?」
「......キヨカ、」
「キヨカ、おれはお前を今晩買った。勝手に出て行くことは許さねぇ」

この仕事をしていて、名前を教えたのは初めてだった。大抵の男はわたしを性欲の捌け口にしか思ってない為、名前など聞いてもこなかった。稀に聞かれたとしても父母に貰った大切な名前を語りたくなくて、適当な偽名を使っていた。
でもなぜが、この彼には本名を教えたくなった。それに名前を聞いてくれたこと、呼んでくれたことそれだけで嬉しくて、自然と涙の量が増えた。今まで手配書で見てただけで、先刻会ってすぐのこの彼に何故ここまで惹かれるのか、自分自身訳がわからなかった。

「おれは普段娼婦なんざ買わねぇ、わざわざ買う程女には困ってねぇからだ。」

ごもっとも。こんな端整な顔立ちの大海賊、しかも今では知らぬ者もいない超新星。こんな男が街にいたら若い女達は絶対放っておかないだろう。

「だが何故だろうな。お前、キヨカには興味が湧いた」

そう言って彼はわたしの涙を自身の舌舐め上げる。まずは右目、そして左目。その後その舌をわたしの頬の上を這わせながら口元へとたどり着きわたしに口付ける。
その粗暴な態度、荒々しい口調からは想像も出来ない触れるだけの優しい優しい口付けは、意図も簡単にわたしのハートを奪っていった。

「ねぇトラファルガー・ローさん。わたし本当はこんな仕事するくらいなら死にたいって思ってるの」
「ローと呼べ、キヨカ」




こんな夜ならば足掻いてみるのも悪くない



この島からわたしを連れ去って頂けない?
ダメ元で聞いてみるのもいいかもしれない



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