「今なんつった?」

心地良い夜風が頬をかすめ
て、わたしの髪がふわりふ
わりと遊ぶように揺らめい
た。

「おいキヨカ、今なんつっ
たんだ?」

麦わら帽子をかぶった黒髪
の少年我らの船長ルフィは
眉間にシワを寄せてわたし
を見ている。嫌悪感をあら
わにし、わたしを見ている

わたしはルフィを見れない


「今まで楽しかった、ありが
とう、けどもうこんな生活
こりごりよって言ったの。」


ルフィを見れない変わりに
遠くの海を見つめる。今日
は月明かりの美しい夜で、
海がキラキラと輝いて見え
て、わたしはこんな夜の海
がいちばん好きだった。


「行き倒れになってたわたし
を仲間に入れてくれて、み
んなと仲良くなって、冒険
して、一緒にご飯食べて、
楽しかったわ」


わたしの視界の隅にいるル
フィは相変わらず眉間にシ
ワを刻んだままわたしを見
ていた。口もへの字になっ
ていて、嫌悪感を微塵も隠
そうとはしない。
本当に本当に素直な人、


「でもね、だんだんかったる
くなってきたのよ。仲間だ
とか、友情だとか、そうい
うの。ルフィには分からな
いかもしれないけどね。や
っぱりわたしは一人でいる
のが性に合ってるの。」


また、風がふいた。ルフィ
の宝物がふわっと浮きそう
になって、ルフィがすかさ
ず片手で飛ばされないよう
に押さえてた。
チラとルフィの方を見ると
ルフィは真っ直ぐな瞳で真
っ直ぐわたしを見ていた。
本当に素直で、真っ直ぐで

そんなルフィの瞳が、人柄
が、わたしは大好きで仕方
ないのに、


「ルフィ、わたしを解放して
よ。もうこれ以上あなたの
海賊ごっこに付き合ってら
れないわ。」


ルフィを小馬鹿にするよう
に鼻で笑ってみせた。視界
の隅でぎゅっとルフィが拳
に力を込めたのが分かった
殴られるのを覚悟した。

否、殴って欲しかった。



けど、あたしは殴られなか
った。殴られるどころか、
力いっぱい抱きしめられて
て、全然意味が分からなく
て、今まで必死に隠してた
感情がぐちゃぐちゃになり
かけてて、焦ってルフィの
腕の中で暴れた。
反抗する言葉を、ルフィを
蔑む言葉を何か言わなきゃ
って、必死に探したけど、
とうとうわたしにはその言
葉を見つけ出せなかった。
何も言えない自分が悔しく
て、どうしたらいいのか分
からなくって、ルフィの胸
板をドンドンと叩くことし
か出来ない

「キヨカおめぇアホだな」

そう言ってルフィはわたし
を抱きしめる腕の力を緩め
た。そしてわたしの顔を覗
き込んで、真っ直ぐとわた
しの目を見つめた。
ルフィと顔と顔の位置が近
すぎる事と、わたしを見抜
く真っ直ぐな目が恐ろしく
思えてわたしは目を逸らし
た。

「キヨカ、おれの目ぇ見ろ
見ながらさっき言ったこと
もっかい言ってみろ」

そんなこと言えるはずがな
いじゃない(言えるはずない
と分かっていながら、そん
なこと言うルフィはすごく
ずるい)

思わず目をつむった、静か
に涙が出た。

「あたしは…もうルフィ達と
一緒にいれない。あたしは
なんの取り柄もない、能力
もない、すごく弱い、」
(これ以上お荷物になって
はいられなかった)


「ルフィは、あなたは海賊王
になる男だから、低俗な普
通の人間のあたしがそばに
いていい訳ないのよ」
(あたしなんかがそばにいて
は迷惑なだけ、あたしの弱
さがいつかみんなの足を引
っ張る)


「あたしは、普通の平凡な生
活に帰るわ、」

(さようなら、大好きだか
ら。さようなら)


最後だけは、素直になれて
よかったと思う。だからあ
たしはこれからのルフィの
幸運を切に切に願って静か
に微笑むことができたの。



「うるせェ、キヨカの帰る場所な
んて此処だけでいい」

あたしの呼吸も、心臓も止
まりそうな程、美しく明る
い笑顔で笑う彼はそう言っ
た。

ししししっ

精一杯に張り詰めてた緊張
感が一気に緩むのと同時に
あたしの涙腺も緩んだ。自
分から仲間と離れることを
決意したくせに、無理矢理
にでも引き止められて安心
している自分がいる。
そう、最初からあたしの帰
る場所なんて此処以外なか
ったのに、


「ルフィ…ごめん、ごめん
ね…」

あまのじゃくなことして傷
つけることいっぱい言った

「キヨカだから許す」

そう言ってニィと笑う、も
う絶対にこの人には敵わな
いって思ったら更に胸の中
がカァって熱くなってあた
しは小さな子供みたいに声
をあげて泣いた。


「ばかだなー泣くなよキヨカ、」


一向に泣き止まないあたし
をルフィはぎゅ、ともっか
い抱きしめてくれた。
ルフィの心音が聞こえて、
ルフィの太陽のような匂い
でいっぱいになった。

まるで自分がルフィと同化
して一つになったような気
がして、嬉しくてまた涙が
出た

(愛おしいと思う愚かしさを、どう
か許して)

20120515 title by3gramme.

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