エースが死んだ









あたしによく話して聞かせてくれて
いた弟さんの腕の中で、

エースは死んだ。






あたしはその光景を遠くから見なが
らただ立ち尽くすだけ。あの戦火の
中どうやって生き残ったのかすら覚
えてはいない。

「キヨカ!!しっかりしろよぃ!」

ただ呆然と立ち尽くすあたしを見て
マルコがそう言ってた気がする。で
もマルコの声はあたしの脳にまでは
入ってなくて、でもまだあたしが生
きてるってことはきっと無意識の中
でもあたしは戦い続けてたってこと
だいすきなひとが目の前で死んだっ
てのにそれでも戦い続けてたなんて
自分でも自分が怖かった。おそろし
い女だと思った。自分の手を見た足
をみた。砂ぼこりだらけ、傷だらけ
血だらけ。きっと大半は自分の血で
はないはず。きっと全身そんな感じ
で汚れきっているはず。いま、あた
しはそんな汚れきった姿のままエー
スの部屋にいる。どうやってここま
で来たのか、記憶にはないがきっと
自分の足でここまで来たのだろう。

ティーチを追うためにエースが船か
ら離れたあの日からこの部屋は主の
帰りを待ち続けてる。エースがいな
いのが当たり前になっていたこの部
屋なのに、なぜか今はエースがいな
いことに違和感を覚えて仕方なかっ
た。

「…エース…」

掠れた声が無音の部屋で響いた。き
っとエースはベッドの下に隠れてて
あたしを驚かそうとしてるに違いな
いのだ。けどベッドの下を覗き込ん
でもエースはいなかった。

「……エース、」

狭い部屋。隠れるとしたらここしか
ないはずなのに、エースはこの部屋
にいるに違いないのに、

「…どこなの?エース?」




ツンと鼻をついた血、独特の匂い

脳裏に浮かんだ

先程の光景



「愛してくれてありがとう」


弟さんの肩越しに確かにエースはそ
う言った、そう言って微笑んだあと
静かに目を閉じ、崩れ落ちた

その言葉を聞いたのは、これで二度
目だった。一度目はこの部屋で初め
て二人で朝を迎えたとき、恥ずかし
くてベッドの中でエースに背を向け
てたあたしを後ろから優しく抱きし
めて言ってくれた。振り返るとエー
スが涙目になってるもんだからあた
しは慌ててエースの広い背中に腕を
まわし力いっぱい抱きしめた。

その温もりをほら、まだこんなにも
はっきりと思い出せるのに、




「エース、あなたはもういないのね、」

笑顔をキスを「ただいま」を

「…あたしはただ、それだけしか望
んでなかったの。」


(さよならすら言えずに、さよなら
なんて受け入れられなくて涙さえ出
ないよ)

20101004 title by3gramme.


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