パーマとやらをかけてみた
ふわふわ、くるんくるん。
「似合ってますよ」
美容師さんに言われてお世
辞だったとしても嬉しいの

新しいリップを買った。
今まで使ってたベイビーピ
ーチもお気に入りだけど、
今回はピンクベージュちょ
っとだけ大人な色。
「素敵ですよ」
店員さんに言われて頬をほ
ころばせる。やっぱりお世
辞でも嬉しいの




船に帰ると、みんな久々の
島だと浮かれ出掛けていて
船にいるのは船番になって
いたクルーだけだった。

「あたし買い物終わったか
ら船番代わってあげるよ?
街に行っておいでよ、楽し
かったよ?」

船番を代わってあげると、
そのクルーは本当に嬉しそ
うに笑って何度もお礼を言
って船から降りていく。
かけたばかりのパーマヘア
ーを指先に巻き付けながら
西の方へ沈む夕日を見てい
た。今日は買い物も出来た
し、念願のパーマもかけた
なんだか楽しかった。

早くあの人、船に帰って来
ないかな、


「ふふっ、」

「なんだい一人で笑って、
気持ちわりぃよい」


思わず出てしまった笑い声
そして背後から聞こえてき
た聞き慣れた声に驚き、勢
いよく振り返る。


「マルコ隊長、街に行って
なかったんですか?」

「いま帰ってきたとこだよ
い」


そう言ってあたしの横に来
て船縁に寄り掛かり、夕日
を見つめるマルコ隊長の手
には数冊の分厚い本。横顔
が夕焼けのせいでオレンジ
になってて、つい見惚れて
しまう。


「本屋さん行ってたんです
か?」

「ああ、もう持ってたやつ
は何度も読んじまったから
ねい」

「へーなんの本ですか?」

「キヨカには難しい本だよ
い」


そう言ってマルコ隊長はあ
たしの頭を撫でた。
ほら、また子供扱いする。
撫でられるのは好きだけど
いつまでたっても『いい子
いい子』みたいな撫で方。
マルコ隊長はきっとわたし
を女だとは思ってないの。
いつまでもいつまでも女の
子止まり。


「…マルコ隊長、あたしパ
ーマかけたんです」

「ああ、後ろから見たら誰
かと思ったよい」

「に、似合ってます?大人
っぽい??」

「かわいいよい」


“かわいい”ももちろん嬉
しい。けど、あたしが目指
したのはパーマで大人の色
気を演出すること。それは
あえなく失敗に終わったら
しい。


「え、えっと、リップの色
も変えてみたんです、ちょ
っとでも大人っぽくなれた
らなって、」

「………………。あんまり
変わんねぇよい、キヨカは
大人っぽくなる必要あるの
かい?」


ちらっとあたしの方を見て
マルコ隊長はまた目線を夕
日へと戻した。
あたしはマルコ隊長に女の
子ではなく女として見てほ
しかっただけなのに。なん
だか、頑張ってる自分が馬
鹿らしくなって泣きたくな
った。


「そろそろ皆船に戻ってく
る頃だな、そしたらすぐに
宴だろう。キヨカ、おめぇ
あんまり飲みすぎるんじゃ
ねぇよい」


ほら、また。子供だと思っ
てお酒を控えさせようとす
る。宴の前はいっつもこう
よ、あたしだって自分の限
界のお酒の量くらい心得て
るつもりなのに


「…キヨカ?」


悔しい悔しい悔しい。
何が悔しいって、悔しくて
それが理由で泣いてしまう
自分の子供っぽさが一番悔
しいの。


「マルコ隊長、あたしはい
つまで子供でいればいいん
ですか?」

「は、」

「マルコ隊長に女として、
見てもらいたいっ、…それ
だけですよ。けどいつまで
もいつまでも子供扱いなん
だもんっ、」

「……………、」


ずずっと鼻をすする自分が
また一段と子供っぽく思え
た。悔しくて、情けなくて
すごくカッコ悪い。


「知ってました?こんな子
供でも恋はするんですよ、」
「好きです、マルコ隊長」






言い終わるか、言い終わら
ないか、本当ギリギリのと
ころでマルコ隊長の唇であ
たしの唇は塞がれた。
あたしの後頭部はマルコ隊
長の右手で、腰は左手で、
しっかりと捕まえられてい
てとても逃げられやしなか
った。
わずかな隙間から入り込ん
でくるマルコ隊長の舌が、
あたしの舌に絡んできて、
恥ずかしさと息苦しさで頭
の中が真っ白になった。

チュッとわざとらしいリッ
プ音を鳴らし離れたマルコ
隊長の唇とあたしの唇には
細い銀色の糸がひいていて
それが恥ずかしくてたまら
なくてあたしは顔を真っ赤
にする。




「知ってたか?こんなオヤ
ジでも恋はするんだよい、」
「好きだよい、キヨカ」

優しく笑うマルコ隊長が言
ったその言葉が、信じられ
ない。嘘だ。だったらこん
なに子供扱いするはずない
のに。
だけど、今までマルコ隊長
が嘘をついたことなんて一
度もなかった。
この人は絶対嘘なんかつか
ない、真面目で、誠実で、
優しくて、あたしの大好き
な人。


「キヨカが可愛くて可愛く
て仕方ねぇから、つい過保
護になっちまうんだよい」


そう言いながらマルコ隊長
はわたしのかけたてのパー
マヘアーに指を絡めていて
優しく、愛おし気にあたし
見るその表情が、仕草がた
まらなく愛おしくなって、
今度はあたしから爪先立ち
でキスをした。



爪先立ちのアイラブユー

少しだけ背伸びをした等身
大のあたしで、あなたを愛
していけたらいいなって、
心の底からそう思うのです

20101025
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企画サイト『無垢な歳の差』さま提出

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