【ASMR】内原先輩のボイスドラマ

内原×秋月



「蒼ちゃん!イヤホンでコレ聞いてみてよ!」

それはとある日の事。
八森さんからスマホとイヤホンを渡され、コレを聞いてほしいと言われた。

「なんですか?これ」

「ボイスドラマ!」

ボイスドラマ?
見てみると、スマホには『いっぱい可愛がってあげる』という文字と共に、音を再生するボタンが表示されている。

「……わかりました」

八森さんの事だから、BLのボイスドラマだろうか?
そう予想しながらイヤホンをして、ボイスドラマを再生してみる。

『……好きだよ。……ふふっ、なに照れてるの?』

すると、声のいい、男の人の音声が流れる。

『キス、しよっか。ちゅぅ……ん、くちゅ……ちゅぅっ……んはぁ……』

ほ、ほああぁぁ……音が近い。
音楽を聴くのとは全然違う。本当に近くにいるような音が流れ、身震いする。

「これ、もしかしてBLドラマじゃなくて、聞いてる人と恋愛する……みたいなやつですか?」

「ちょっと!ドラマに集中しなさいよ!」

「え、ええぇ……」

一人の声しか聞こえてこない。
だから疑問に思い質問したのだが、こちらをじーっと見ている八森さんに叱られる。

それにしても、この声。誰かの声に似ているような気がする。

『可愛い。これだけで感じちゃった?……耳舐め、好きだったよね。……くちゅ、ちゅ、ちゅぐっ』

「いひっ」

耳舐め。その言葉の後、音声がくぐもったものに変わり、音も、より近くで聞こえてくる。
耳の奥に届くその音は、本当に耳を犯されているような気分になってしまう。

「おっ感じちゃった?」

「バカ言わないでください。変にくすぐったいんです。ゾワゾワする……」

『服、脱がすよ。……カワイイ乳首。もうピンとなってる。ここも、舐めてあげるね?』

そ、そんな事まで……。

『下、もう濡れてる。準備してきたんだ?……え、もうほぐしてあるの?本当だ。もう、俺の、挿入できるね』

えっ。もしかして……。

パンッ!パンッ!パンッ!

…………。

『イきそう?じゃあ、一緒にイこっか』
パンッ!パンッ!パンッ!
『ん……っ!』

…………。

『気持ちよかった……。好きだよ。ずっと、俺と一緒に居ようね』

…………。

「普通にセックスしてるじゃないですか!!」

「なんか嬉しそうじゃないね。好みじゃなかった?」

「いや……まあ……好きデスケド……」

だとしても、八森さんと一緒の場所で聞くものじゃないだろう。
せめて、初めに言って欲しかった。



それから、八森さんは何回かそういう系のボイスドラマを聞かせてくれた。

「今回はどうだった?」

「うーん、よかったんですけど、やっぱ俺、最初に聞いた人の声がいいです」

どうやら八森さんは、18禁のドラマを買っているわけではなく、ここの生徒と一緒に作ったドラマを俺に聞かせているみたいだった。

「声はいいんですけど、耳舐めとか、喘ぎ方とか最初の人と比べると……。下手ってわけじゃないんですけど、好みじゃないっていうか」

「ふむふむ。じゃあ、最初の人が蒼ちゃんのお気に入りなんだね!言っておくよ!」

「言わなくていいです」

「喜ぶよ!」

「いいですって」

その人のえっちな声聞いて喜んでるなんて言われたら、恥ずかしいじゃないか。

「あの、八森さん。最初の人が、攻められてる声ってないんですか?」

「ネコ声?そういうのはないなぁ」

「そうですか……。他の人の音声で、ネコになってるシチュがあったじゃないですか。あれ、良いなって思って……」

「ふーん。じゃあ、リクエストしとくね!」

あれから数週間後。八森さんは、「リクエストのネコ声だよ!」と言いながら、最初の人の音声を持ってきてくれた。

『んん……っ!だめ、そこっ、弱いから……っ!』

それは、いつもより高く、可愛らしい声。

「可愛い……。可愛いです!これです!俺これ好き!」

「喜んでくれて嬉しいよ!!伝えとくね!そういえば、蒼ちゃん向けの特別ボイスもあるよ!」

「えっ!」

八森さんから音源を渡され、ウキウキしながら聞いてみる。
すると、いきなり耳舐めから入り、ゾワゾワとする。

『あきちゃんは、攻められてる俺が好き?こういうの、初めてだから、変だったらごめんね?……あきちゃん、好きだよ。もっと、俺とえっちなこと、しようね?』

その音声に色々な感情が湧いてくるが、まず聞かなくてはいけない。

「……あきちゃんってなんですか」

「あー。蒼ちゃんのニックネーム!仮の名前さ!」

「……俺だってバレてないなら別にいいんですけど……」

そう言うと、八森さんはぎこちない笑顔を浮かべた。



それから、また数週間が経ち、八森さんが音声を渡してくる。

その音源は、俺特別仕様らしく、リバ物らしい。

「いやー、蒼ちゃんも気にいられたもんですな〜」

「なんで誰ともわからない人を気に入ってくれるんですか。俺の事ばらしてません?」

「いやいやいや!?そんなわけないじゃん!?あのー、ほら!感想言ってくれるファンって気になるじゃん!」

「そういうものですか?」

あまりよくわからないけど、八森さんの言う事を信じよう。

「じゃあ、聞いてきますね」

流石にもう、八森さんの前で聞くのは恥ずかしい。

自室に帰って聞いたものは、それはもう凄かった。

最初にネコ声が入っていたが、今回も可愛かった。そして、本当に俺専用みたいで、なんども「あきちゃん」って愛しく呼ばれる。

後半も凄かった。こっちはタチのシチュエーションで、俺の体を好き勝手決めるけるな、と思ったのは最初の内で、こうされたらどうしよう、なんて想像してしまい、なんというか……良かった。

そういう趣味はなかったはずだが、この人の演技がとても良かった。まるで本当に愛されているみたいで、夢中になってしまった。

どうしよう、俺、この人の事が凄い気になる。

姿を見たいわけではないが、この人の事をもっと知りたい。そう思うようになった。


ーーー


「これ、渡してください」

「おっけー」

俺は八森さんに、あの人に向けて手紙を書いた。

「今回も良かった。そうお伝えください」と八森さんに言うと、自分の言葉で伝えろと言われた。なので手紙を書いた。

それから、あの人はよく俺向けのボイスドラマを送ってくるようになった。その度に、俺は感想を送った。

音声を聞くと、俺たちって両思いなんじゃないか。そう錯覚してしまうほど、あの人は俺に愛を囁いた。

それだけで、嬉しくて、熱を持ってしまって。

「え?この人に会いたい?」

「直接じゃなくていいんです。収録してる時に、ちらっと見れたら……」

「わかったよ!」

最初は他の男との絡みを想像しながら楽しんでいたのに、最近は、あの人に触れてほしくてたまらなくなっている。

実際にその人に会えば、失礼な話だが想像と違い、諦められるはずだ。

そして「会いに行っていいよ」と言われた日。俺はこっそりと、収録を行っている部屋を覗き見した。

「うっちー、今日の台本考えてきた?」

「もちろん〜。はい〜」

その声は、内原先輩のものだった。

「お、またリバですな?」

「うん。あきちゃん、俺が気持ちよさそぉ〜に喘いでる声好きだからねぇ〜」

「でも攻める声も入れたいと」

「まぁねぇ〜。でも最近好評だよ〜」

台本。リバ。あきちゃん。喘いでる声が好き。攻める声も評判。

…………。

そういえば、最近、内原先輩が生徒会室に来る回数が減った気がする。
また男と遊んでいるのだろう、と、気にしていなかったけど。

「前の収録以降、喘いでる声出してないんだよねぇ。ちょっと聞いてくれる〜?」

「いいよいいよ!聞かせてちょーだい!」

「あー、んんっ……。んぁっ!それっきもち……あっああっ!……どぉ〜?可愛い?」

「今日も絶好調!超絶可愛いよ!」

「ん、おっけぇ〜。じゃあ早速収録しちゃおっかぁ」

俺は、気づかれないように部屋から離れ、自室へ逃げた。

あの喘ぎ声、俺の好きな声だ。

どこかで、聞いたことあると思ってたんだ。でも、声色を変えており、録画された声だけじゃ気づかなかった。

しかも、しかも、しかも!!内原先輩、ずっと最初から知ってた!俺が聞いてるって!俺が手紙出してるって!!!とてもえっちだって、聞いててドキドキするって、大好きだって、書いちゃった!!内原先輩に!!

恥ずかしい。恥ずかしい。その気持ちでいっぱいだ。



それから数日後、八森さんから音声を貰った。

「八森さんの嘘つき。内原先輩なんですよね、この人。俺の事、バレてるじゃないですか」

「ごめん、もう最初に言っててさ。バレてほしくなさそうだったから嘘ついてた。そう、優しい嘘をね……」

「別に優しくないです」

自室へ帰り、音声を聞く。

それはいつものあの人の声だけど、内原先輩の声でもある。

目を閉じれば、理想の男が喘いでいる。でも、それがだんだんと内原先輩の姿になっていく。

内原先輩は、お返しだって、俺の体を触って、頬に、口に、胸に、キスを落としていく。

駄目だ、駄目だ。聞いてみたはいいものの、完全に駄目だ。

諦めるはずが、逆効果だった。

全然意識したことがなかった。なのに、今ではもう、内原先輩のことばかり考えてしまう。

内原先輩に、触れてほしい。


―――



「内原先輩って、どうなんですかね……」

手紙を八森さんに渡したついでに、八森さんに恋の相談、というものをしてみる。

「うっちー?どうって、どーいう?」

「恋人とか、いるんでしょうか。それとも、セフレで遊んでるとか」

「最近はどっちも無さそうだね。今は蒼ちゃんにエロボイス送るのに夢中になってるみたいで、かなりの頻度で俺に会いに来るかな」

「ははっ、なんですかそれ」

素直に喜んでいいのだろうか。

「突然セフレと遊ぶのやめるって宣言してさ、『俺のファンが可愛そうだから、エッチな声でもプレゼントしようかなぁ』って言ってきて、適当に台本借りて数カ月に1度収録に来るぐらいだったんだけど、俺が『蒼ちゃんも聞いてよかったって言ってたよ』って伝えたら、嬉しかったのか週に何回か来るようになってね。最終的には自分で台本作るようになったよ」

「確かに、途中からテイストが違ってきたというか、過激になってきた感じはありましたね……」

好きだって言う頻度も、エロ関連も。

「……なんで夢中になったんでしょう。素直に、俺の事が好きだから、って、考えてもいいんですかね?」

「他の理由あるの?」

「内原先輩が、俺の事冷たい人間だって思ってて、エロに夢中になる俺に楽しんでる、とか」

「ネ、ネガティブゥ〜〜〜。うっちーはそういうこと気にしないから、大丈夫だと思うけど」

「うーん……」

でも、実際に冷たく接してるのはあるんだよな。
あの人、冗談なんだろうけど誘ってくるのが気に入らなくて、つい冷たくしてしまう。

「俺、告白しちゃおうかなって」

「え!!?告白!!」

「八森さんリアルホモ好きなんでしょう?手伝ってください」

「な、なるほど。必要ないと思うけど、承知」

あの音声だけを素直に信じるなら。相手も俺が好きなんだと思う。でもそんな根拠どこにもないし、台本だし、俺と内原先輩が会っている時、そんな素振りなんて全く見せなかった。

アプローチとか、するべきなのかなぁ。最悪、体からの関係になっちゃうとか。キッカケがキッカケなんだし、最悪セフレ止まりでも、受け入れられるかもしれない。

しかし、俺にはそんな勇気はなく。手紙に、[あなたのことが好きです。声だけしか知りませんが、本気で好きになってしまいました]なんて、内原先輩の事を知らないふりをして、ヘタレなラブレターを書いた。

向こうから、なにか行動を起こしてほしい。そんな魂胆が見え見えな、手紙を。

その日から、2日後。

「……なんですか、言いたいことあるなら聞きますよ」

内原先輩に、ずーーーっと、見られていた。

「いやぁ、今日もあきちゃんは可愛いな〜って思ってぇ」

内原先輩は、誤魔化すようにそう笑った。

「なにか悩んでるみたいでしたけど。……いや、言いたくないなら聞きませんけど」

きっと、あの手紙を読んだのだろう。それで、なにか悩んでいるのだろうか。

悩み聞きますよ、とは言ったが、この生徒会室で告白を断れるのはちょっとキツイ。できれば聞きたくない。

こんなにモヤモヤするとは思っていなかった。こうなるぐらいなら、直接告白したほうがよかったかもしれない。

「俺ねぇ、好きな人いるんだぁ」

「えっ……あ、はい」

な、なんなんだいきなり、こんなところで。諦めろ、という遠回しな断り方だろうか。

「でも、その人は俺の事、好きじゃなさそうでさぁ〜。それで今、悩んでるんだぁ」

「なんで私の顔を見ながら悩んでたんですか……。勘違いしそうになるんですけど……」

「あはは、ごめんねぇ〜。あきちゃんはさ、俺の事好き?」

これは……どう答えるべきなのだろうか。内原先輩は、俺が内原先輩の声にメロメロなことは知らない。それにあの手紙を出した後だ。ここで好きだと言って、信じてくれるのだろうか。気の多い男だと思われないだろうか。しかし、好きじゃないと答えるのもいかがなものか。

答えに迷っていると、内原さんは俺の耳元へ口を近づける。

「俺は好きだよ、あきちゃんの事」

「ぅひゃっ」

突然の行動に、耳を守るよう手で覆う。

あの声、あの声、あの声……!!正体ばらしてきた!こんなところで!こんな、他のメンバーもいるところで!!

拒否されたように見られたのだろうか、内原先輩は悲しそうに笑うと、俺から離れる。

「あ……!待って……!」

俺は内原先輩を追いかけ、抱き着く。生徒会のメンバーが、ざわつき始める。俺はそれを無視して、二人にしか聞こえないような声で言った。

「あの手紙、出した時にはもう、内原先輩だって事、知ってました」

そう言うと、内原先輩の体がびくりと反応する。

「俺も好きです。内原先輩の事……」





――(内原side)――



「好きだよ、あきちゃん」

「ん……っ、俺も、好きです、すき……!」

あきちゃんを後ろから抱きしめ、耳元で囁く。
耳が弱いのか、ふーっと息を吹きかけるだけで体をビクビクと揺らす。それが可愛くて、ふふっと笑う。

「そういえば、手紙に、耳舐めされてみたいって書いてあったよね」

「えっ」

「やってみようか?」

そう言い、耳を舐める。はじめは耳輪に舌を這わせ、くるくると内側へ向かい、舐めていく。
そして優しく、奥を舐める。あの音声と同じように、くちゅくちゅと音を立てながら。

「あぅ……っ!やっ、ぅんんっ……!」

あきちゃんは可愛く喘ぎながら、抱きしめている俺の腕を掴む。

「可愛いね。いつも、こんな可愛い声出しながら聞いてたの?」

「出してないです。録音とは、全然違って……!」

「ふふっ、実際に舐められた方が気持ちいいんだ」

あきちゃんは恥ずかしそうにしながらも、コクリと頷く。

「じゃあ、たっくさん、気持ちよくさせてあげるね」

今まで囁いてきた、俺の想い。
今度は作ってない、本当の声で、囁いてあげる。

だからあきちゃんも、それを一心に受け入れて、可愛い声で俺の想いを伝えてね。




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