私が彼に初めて逢ったのは
まだ成蛇前の人の形を取れない、話すことも出来ない、20cmほどの子ヘビの時だった
先代巳の主と言われて思い浮かべるのは
とにかく常に謝り続けてることと、辛そうに胃を押さえてる仕草だ
巳の一族は他の一族にくらべ厄介で、それぞれが猛毒の牙を持つが故に些細な喧嘩やじゃれあいでも命が失われかけることがよくある
同族同士ならまだしも、他の一族を殺しかけたら笑ってすまされる話では無い。けれど謝らない訳にはいかない
優しい優しい先代はとにかく頭をよく下げる人だった
それでも私はそんな先代が大好きで彼の手首にいっつも巻き付いていた
母さんや父さんと一緒にいるより先代に巻き付いてる時間の方が多いくらいだ。
彼―――――龍哉様に初めて逢ったのも、先代に巻き付いていた時のことだった
「いやもう本当に毎度毎度薬を作ってもらいすみません。本当に本当に申し訳ありません」
「薬くらい気にすんなよ。ほらよ……って、子ヘビ?」
ぱちぱちと
主様に薬を手渡すときに、手首に巻き付いた私に気付いた『たつぞくの主様』を見上げる
彼はちっちぇなぁと怖い顔を笑顔にしながらじーっと私を珍しげに観察してくる
おひげもじゃもじゃ。主様と全然ちがう
「ああ、特に私になついてる子なんですよ……巳乃、ご挨拶は?」
「ほれ、来いよ?」
私の頭くらいの太さがある人差し指でツンとつつかれたのでしゅるしゅるとたつの主様の指に巻き付きながら移動する
主様と違う太い指は、巻き付きにくかったけど反対の手で支えられたので私は落ちたりすることはなかった
そのままスッと移動させられて彼の眼前まで運ばれる
おひげもじゃもじゃー
でも、眼は主様みたいに優しそうだ
「鱗が冷たくてくすぐってぇな。俺は龍哉だ、よろしくなちっちぇの」
身体を伸ばして近づき
噛まないようにしっかり口を閉じながら、彼の頬にぐりぐりと頭を擦り付けて私に出来る精一杯のこんにちはを示すと彼は豪快に笑い出した。なんで??
「すげぇちっちぇー。なんか可愛いな」
「うちの子も愛らしいでしょう?巳乃おいで」
主様の細い指に絡めとられて、再び最近定位置になってる手首に巻き付く
優しそうなひげもじゃの、どこかの主様。
それが龍哉の第一印象だった
帰