「腰が痛い……バカ伊藤…」
「誘ったお前が悪い」
「誘ってない!!初心者なんだからもっと手加減………なにニヤニヤしてるのよ!!」
グイッと伊藤のネクタイを引っ張って睨みあげるけど、妖しくニヤニヤしてる伊藤にちゅっとキスをされて悲鳴をあげながら逃げた
「ば、バカ!!節操なし!!2日連続でシタじゃない!!」
「キスしてほしいから引っ張ったんだろ?いやぁ、初心者ってことは俺が色々ハジメテってことだろ?いやー嬉しいなぁ」
「死ねこの変態!!」
腰に手を回して抱き締めようとする伊藤の鳩尾に、ピンクのネイルが割れるのも気にしないでガスッと一発いれて
「がっ、おま………」
伊藤がしゃがみこんだ隙に逃げ出した
給湯所で鏡を見て真っ赤な顔にため息が出る。ふ、とネイルは大丈夫だったろうかと確認をしていると左手に輝く可愛い指輪が目に入った
腰も痛いし、指輪もあるし
あの三日間は夢じゃ無かったんだと嫌でも現実を叩きつけられる
レストランの食事は美味しかった。でも、本当は別の人と行こうとしたんじゃ無いだろうか
この指輪も―――――
伊藤のことは嫌いじゃ無い。むしろ、告白されたときにカッコいい……とコロッといってしまったのは否定しない。けれど事情が事情だ。
酒の勢いで、処女を食べちゃったから責任を取ってくれようとしてるんじゃないだろうか……
悶々と考えて凹み続け
指輪の冷たさに胸が痛みながらチャイムの音とともにのろのろとオフィスに向かった
ぱんぱーっん!!!!
オフィスの扉を開けると共にクラッカーを打たれてきょとりとすると、同僚達が次々におめでとう!と言ってきた
「な、なに?何事?」
「まったまたー、伊藤君のプロポーズ受けたんでしょ?」
「初彼氏おめでとう!」
「佐々ちゃんのこと俺も狙ってたのに残念〜」
「な、なんで知ってるのよ!!」
かああああああっと顔どころか全身に熱が集まるのを感じながら、近くの柱に隠れて皆を睨む
よくみるとオフィスの中はクリスマスの余り物っぽかったけど、飾り付けられて
『佐々&伊藤婚約おめでとう!と書かれていた』
「え、だって私伊藤君に優香をクリスマス誘うなって根回しされたしぃ」
「私は優香の好きなデザインのリング聞かれたー」
「俺なんか、手ー出すなって脅されたんすよぉ」
「極めつけはあれね」
先輩が指差した先には
部長にウェディング雑誌を見せてでれでれと相談してる伊藤がいた。ちなみにクラッカーの紐にまみれていた……私みたいに
『式にはちゃーんと呼んでねー?』
みんなの揃った声を聞きながら
「いとぉぉおおおお!!!!」
「あ、優香……げ、ちょっとまて!!」
書類の詰まった分厚いファイルで、思いっきり奴の頭を殴った
「あははははは!!」
笑い声に包まれながら、どかっとデスクについてパソコンを起動する
キーボードに指をかけて、また視界に指輪が入ったけど
今度は胸がぽかぽかと暖かくなった
小さく笑いながら、メモ帳に『ごめん』と書いて隣の奴のデスクに伊藤が帰ってくるまえにおいた
(根回しするくらい、前から好きでいてくれたんだね)
帰