「よーっす、相変わらずの猫屋敷だなぁ」

「…………」


叔父さんに連れてこられた小さな店は、猫ねこネコ、猫で溢れていた
予想外の光景に一瞬固まるも、ゴロゴロと喉を鳴らしたネコ達が足に擦りよってきて身動きがとれなくなる

え?はぁ?

こんな小動物と戯れたことなど、産まれてこの方28年間一度も無い

故に、どうやって回避をすれば良いのかわからず叔父さんに目で助けを求めるも、叔父さんはあっさり無視して店の主人の元へ行った

「御用件は」

「人探しだ。シーギルハイト来てんだろ?」

「うちは人殺し専門だ。探索なら探偵所に行け。レイ、シイ、リイ、キイ、エイ、客になつくな」


黒い服装の店主がそう言えば
ネコ達は尻尾を立てて店主の元へと移動した

助かった…


そんなことを思いながら、叔父さんの元へ行く


「わりぃが頼むよ。アレンが国へ帰る前に是が非でもシーギルハイト嬢を落とさなきゃ行けねぇんだよ」

「………国?」


ゆっくりと
吸い込まれそうな闇色のよどんだ眼が、こちらを見る

「どうも、初めまして」

とりあえず挨拶を返してみたが、ネコまみれな男性は表情を変えずそれを黙殺した

「……他国の方か」

「はい、今は我が国の王子の護衛としてこちらに逗留させていただいています」


変わらない表情
変わらない瞳
戸惑いながら彼をまっすぐに見返す



「なぁ、シーギルハイトを出してくれよ」


「……悪いがそれは出来ない。うちの国の奴ならば俺も協力してやったが……他国の男となれば、話は別だ」



それは一瞬のことだった
急に叩きつけるような、巨大な殺気を向けられ咄嗟に剣を抜く
だが、俺の首や叔父さんの首……いや、ありとあらゆる場所にはいつの間にか現れた人たちによってナイフを突きつけられていた


主人以外誰も居なかったはずなのに……いつのまに

さすがにこの状況では、抵抗を考えることも出来ずに素直に剣を手放し敵対の意思が無いことを暗に示した


「どーいうつもりだ?国を敵に回すつもりか」

「……リゼにはうちのギルドで使ってる毒薬の知識も大量に叩き込んでる。それこそ、暗殺に毒が使えなくなることを覚悟でな……けれど」


さっと、表情を一度も変えない彼が手をあげれば
俺たちにナイフを突きつけていた人たちはナイフを鞘に閉まった


「それは、あいつがこの国の平民達を本気で救いたいと夢見て努力をしているからだ。俺たちはみんな平民出身だからそんなリゼの心意気に打たれてリスクを背負った。……だから、俺たちはあいつの夢が叶わなくなるのは阻止する。あいつが他国になんか嫁いだら、俺たちはなんのためにリスクを負って機密を漏らしたんだよ?」

鞘にしまいはしたが、
その場にいる全員から、隠す気の無い殺気を感じられる


やはり、彼女は尊敬出来る女性だ
彼らがこんなにも俺たちに殺意を向けるのは、それだけ彼女が期待されてるからだろう


「知るかよ、てめぇらの勝手な事情でシーギルハイトの初恋を枯らす気か?」

「リゼとそいつをくっつけようとしてるのも、あんたの勝手な事情だろ。異国に嫁がせて、一族で囲い込むつもりか?」



……本当は。真っ赤になった彼女を見て心が動かされる程には惹かれていた


うちの国にいる女達とは違い、媚びないし礼儀よりも大切なことを弁えている。仕事が好きで、仕事に誇りをもっているのもわかる

叔父に推されたからではないが、こんな女性が嫁になったならば……助け合い支えあえる理想の夫婦になれるんじゃないか……とも思った


けれど


彼らの、自分達の仕事がどうなっても構わないとも言えるほどの期待を見て
そんな期待に応えるべく頑張っている彼女を知っている俺は

「叔父さん、帰りましょう」

「ああ゛?こんな奴等のことは気にすんなよ。か弱い女性に頼りきって、自分達で何かを変えようとする気も無いバカどもには」



彼女の側に、いてはいけない

彼女の邪魔をしてはいけない


「俺は、シーデルハイト嬢の夢を応援してやりたいんです」

さらに増した殺意、今すぐにでも戦闘が始まりそうなのを感じながら
真剣に訴えると、叔父さんは苦々しげにため息をついた




『俺も、応援します』







「……悪いな、恋路の邪魔をして」

「……恋路も何も、アレンさんは私には興味無いよ」

「そうだな、そう思っとけ……ほら、ネコ布団にくるまって癒されとけ」

「……さんきゅ」



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