「あ、リゼ様おはようございます」

「……おはよう。具合はどうですか」


一応、あの異国の王子を診た翌日から
私は彼等の担当を押し付けられた


たぶん、キズァ老師も見せてくれなかったのを根にもってるんだ。あの人、俗に言う腹黒だから



隊長さんは意識が戻るとそのまま気合いで医務室でお兄さん、もといセラティス王子様の護衛に入った
他の人たちは未だに口に入った薬の凄まじさに食事を拒み出したからまた治療に入った。軟弱ものめ


「私は少しだけ腹部がひきつる感じがしますが大丈夫です」

「んー、明日辺りには完治しそうですね。薬を飲めば」

薬、の一言に隊長さんの表情はピクリと揺れて

「ぐ、ぅぅぅ」

「ごふっ」


さらには寝込んでいるおじさんたちは一斉に悶絶苦しみのたうつ

つい面白いおじさんたちをセラティス王子と眺めて
見つめ合うときには私たちは苦笑いになった


「御迷惑をおかけします」

「ま、責任をもって完治はさせますよ」


紙に具合や状態を書き込み、その結果から今日飲ませる薬の分量を決める
とくに、おじさんたちのは真剣に決めないと。


毒草を混ぜて、一瞬だけ味覚に記憶された味を抹消するんだけど
これをミスったら味覚そのものに異常が出たり、今までと異なる味覚になってしまう



研究室から持ち込んだ数種類の薬と、医務室にある薬を配合するため
会釈をしてからカーテンの向こうで作業をすることにした

頑張れわたし



ちり、ちりと
天秤の動きを気にしながら作業しているのに


「よーっすアレン!!」

突然ドカンと開かれたドアにビックリしたせいで

一つめの薬はうちの国の筋肉バカでおじゃんにされた


「…………」


仕方がないから処分するためにそれはそれで薬包に包んでポケットに入れる


「……叔父さん?お久しぶりです」

「甥っ子が王子つれて来たっつーから歓迎しに来たら食中毒ってなんだよ。あ、王子失礼します」


……そうか、異国の隊長さんはうちの国防大臣の甥っ子さんなのか
聞き耳は良くないこととわかりながらも気になる。気になるから配合の手も止まる


「いえ、こんな状態でご挨拶になり申し訳ありません」

「いやいやいや、俺はそんな王子に畏まられるような奴じゃ無いですから楽にして下さい!!それにしても良かったなぁ、シーギルハイト嬢の治療はこの国で一番ですぞ」


シーデルハイトです。リゼ・シーデルハイトです
突っ込みたくて仕方がないけど、なんとか我慢して薬草を半分は配合した

ここからは毒草だから慎重に……


「正直、彼女に諌められたおかげで王子を救えました」

「あーはっは!!シーギルハイトの渇をくらったんだって?あの娘見た目も医師と薬師の腕も最高だけどほっっっっんきで、気がつえーからなぁ。俺も何度も怒られてるぜ、一層死ねばいいのにって何度も言われたなぁ」


ぴたりと持ち上げた毒薬を包んだ紙の動きが止まるのは致し方ないよね

無理です。BGMが気になって調合どころじゃ無いです


「あの、叔父さん、」

「マジあいつあんなんじゃ嫁の貰い手なんかねぇだろうなぁ」

「いや、その」


一応言っておく。将来有望なせいで私はわりと選り取りみどりだ
見合いの話や結婚話も沢山来ているが、仕事に集中したいから断っているだけだ

カタリ、とさじを置いて
薬包も置いて
医療器具として置いてある10cmほどの長い針を一本取る

これはキズァ老師の医療器具だ。私はまだ修行中の身で、完全には針を扱いきれない 「けどなぁ、気が強い嬢ちゃんを組み伏せて女にしたいと思わないかアレン?どうだアレン、お前も身を固めないか?」


そうか
あの隊長さんに私を勧めたかったのか
真実がわかっても、苛立ちは消えることは無い


バッッと、カーテンを勢いよく開けて飛びかかり
針を手に攻め込むが
針は顔面に刺さる前に私の殺気に反応した国防大臣に止められた

彼が止められないくらい鈍ってたら困ってたけど


「ごきげんよう、セラフ大臣」

「よーぉシーギルハイト嬢。今日も可愛いな」

「早速ですがどうやら脳に異常が見られるので治療しても良いですか?」

「はっはっは、俺は元気だぞー」



にこにこと笑い合い
はらはらする王子と隊長さんたちに見守られながら、全力でぶっ刺そうと力を込めるが全く動く気配は無い

ったく、この筋肉バカが


「余計なことごちゃごちゃ言ってると殺すぞカスが」


笑みを消してぎろりと睨み付けてから、手の力を抜くと
がっはっはっと笑われながら私は解放された


「いやぁお嬢ちゃんは良いなぁ!!いやマジでうちの親戚にならないか?ほらアレンなんか異国だがこの若さで王子の近衛だ。悪くねーだろ?」

「年の差考えろや」

「16と28なんか許容範囲だろ?浮気もしねぇ真面目で堅物な甥っ子だがうちの一族秘蔵のお勧め物件だぞ」

「いい加減黙れ。黙らないと次薬を調合するとき死ぬほどしみるの作るぞ」

「あっはっはっは、そりゃあ困るなぁ」


ぐぁしぐぁし!!と乱暴に髪を掻き回されて
乱れてしまったから、パチッとバレッタを取って暗い茶色の長い髪をさらりとほどく

王子様の前でこんな恰好は許されないかもしれないが、乱れたままでいるのはさすがに困る


「叔父さん、シーギルハイト殿も困っていますしその辺りでおふざけは終いにしてください」

「むしろ仕事行けよ」

隊長さんと二人で攻め込めば
大臣は下品な笑いを立てながらまたあとでな、と部屋を出ていった

ったく、これで薬が作れる
ため息をつきながら再びカーテンの向こうに行こうとすると手を握られて引き留められた


「申し訳ない。俺の昨日の無礼も叔父さんの無礼も。重ねて謝罪をさせてくれ」

「………昨日のは次やったら見殺しにします。大臣は貴方には関係ないですから」


ずるいなぁ
そんな申し訳なさそうにされたら、意地悪は出来ない

「………すまない」


プライド高いやつのプライドを折るのは好きだけど
本気の謝罪をされたらどうすれば良いのかわからないんだ。私、医療バカだから


「リゼ・シーデルハイト」

「……はい?」

「貴方たちがこの城に逗留する間の世話を任されましたから、困ったことがありましたら何なりと言い付けください」

手を離し、両手でドレスの裾を持って頭を下げる
そうしてにっこりと笑えば、隊長さんもぎこちなく笑いながらありがとう、と溢した


「では薬を作りますので」

「はい、ありがとうございます」



『今度はちゃんと苦くなくしよう』




「……彼女が気になりますか?」

「王子まで何を言うんですか」

「アレンが女性に敬語を使うのは珍しいですからね」

「彼女は敬意を讃えるべき人物ですから」

「まぁ、そうですがねぇ」







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