「真珠は花火とか知っているかい?」

ニコルのお手伝いと言う名前の、書斎でのただのだらだらをしていたとき
彼は一枚の紙をぴらぴらしながらこちらを向いた

突然なんだろうと思いながらもコクリと頷く

「今度わりと大規模なお祭りと花火大会を開催するから、来ませんかって誘いなんだが……」


お祭り!!
花火!!
床に置かれたふわふわのクッションの上で、ふわふわのサーモンピンクのドレスの裾を鷲掴み

連れてってくれるの!?と期待に満ち溢れながらまっすぐ彼を見上げる


「っ、なんて可愛いんだ真珠!!」


すると椅子から離れたニコルにぎゅむううううっと抱きつかれた

うざあつい
クーラーが効いてても暑苦しい

行くのか行かないのかはっきりして欲しい。けどここで不機嫌にさせたら間違いなく連れてってもらえないから甘えねだり擦り寄る


「行きたいんだね?」

「行きたい」

「こんなに可愛くおねだりされたら仕方がないね」

やったやったやった

その時の私の頭の中では、近所で行われていたお祭りが浮かんでいて

りんごあめ
射的
金魚すくい



兎に角楽しみで楽しみで仕方がなくって


ニコルに抱き着かれてるのに、それすらも気にならず
ふにふにと笑いながら、近いうちに行われる予定のお祭りを楽しみにしていた













──────楽しみにしていただけに、私は非常にがっかりした



出店が立ち並び、ステージでは色々な人が歌い
人混みでごっちゃながらも凄く盛り上がるお祭り…………



「ようこそお越しくださいました!!アーカード卿に奥方様!!」

「お招きありがとうございます。妻もこの日を楽しみにしていて…真珠?」



そんななか
広間脇でやぐらを組んだ特設VIP席に私はいた
見張らしは凄く良いよ?

でも私が来たかったのは、下のごちゃごちゃしてるとこで


こんなとこ、行きたいのに行けない生殺しの苦しみしかない


不機嫌を露にして
折角だからと着させられた浴衣が崩れないよう気を使いながらもニコルに背を向けて椅子に座る

「どうしたんだい?あんなに楽しみにしていたのに」

「知らない」


浴衣にかんざしに
下駄に巾着に

東洋人マニアなニコルがばっちりお祭りセットを揃えてくれたのに


楽しみにしてたのに





こんなの、違う



久しぶりに感情が大きく揺れて、すごく期待していただけにガッカリ感が半端なくって


目頭が熱く込み上げて来るのを必死に堪える


泣きたくない。でも………がっかりだ


「真珠?どうしたんだい?気分でも悪い?」

「知らない」

「知らないじゃないだろう?ほら、どうしたいんだい?」

どうしたいって、そんなの……

ぎっと歯を食い縛ってから
私の前で腰を屈めて心配そうに見つめるニコルに手を伸ばす

ちなみにニコルも着物だ


「した、行きたい」

「え?下って……凄い人混みだから真珠つぶれちゃうよ?」

「行きたい。お店みたい、遊びたい」


子供じみてることはわかってはいたが、それでも息抜きで遊びたいんだ

ぎゅっとニコルの着物を掴み
泣きそうになりながら見上げると、う゛、っと詰まって視線を逸らして

賑やかな下を見てから、ニコルは重いため息をついた


「少しだけだよ」

「本当に!?」

「……まったく。可愛いから本当にタチが悪いよ。市長、出店を少し回りたいので護衛の方々を借りてもよろしいか?」

「花火の時間までには是非お戻り下さいね」








「あれなに!?」

「あぁ、あれは」

「あれなに!!」

「ちょ、真珠?」

「あれは!!あれは!!」

7人の護衛さんたちに完全に回りをガードされながら
私はかなり久しぶりに……目覚めてから初めてはしゃいでいた

ニコルの袖を持って、よくわからない屋台を冷やかして

初めは私の変わりように戸惑っていたニコルも、やがて優しく笑うとなんでも買ってくれた


楽しくて楽しくて仕方なかった



「ピエロだ!!」

やがて、玉の上に乗りジャグリングをする凄腕のピエロの所にたどり着いて
たくさんの人と一緒に

ニコルと並んで芸を見る



「楽しいかい?」


不意にニコルから投げ掛けられた質問に



「うん!!」


私は迷うことなく満面の笑みを浮かべて頷いた







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