………………

世の中には、わかっていても聞かない大人の気づかないふりと言うものがある

「…………」

「…………」


特に私と主人の間では過ごしてきた年月の分、言わなくても互いの体調や気分はわかる。わかるはずだが、言わずにいてくれる優しさはいつもありがたかった


「………」

「………」

お腹が痛い。毎月のものとはいえ、この痛みは何とかならないものだろうか
下半身が砕けるんじゃないかって言うほどの生理痛にため息をついて軽く腰をたたく

痛みは全くひかないものの、そうすれば凝り固まったような状態の腰は少しほぐれた

私が動くのも苦痛なのが分かっているのか、まことに申し訳ないけれど主人が炒れてくださった暖かいコーヒーを一口飲むとほう、と体から自然と吐息がこぼれた


「……そんなに辛いなら、今日はもう帰っていいぞ」

「いえ、まだ書類ものこっていますし会議もお供します」

「………歩けるのか?」

「え??少々つらいですがさすがに歩行等に支障はございませんが」


きょとり、と首をかしげる
生理のさなかでも今まで仕事はこなしてきていたのに今更どうしたのだろう
注意深く主人の様子を見ると、主人は気まずそうに何かを言いよどんでいる様だった

「俺にはわからんが………女の初めては相当痛いのだろ。無理はするな」


コーヒー、吹き出すかと思った
ぽかーんとしながらコホン、と咳払いをしてトントンと種類を綺麗にまとめる主君を無礼とか不敬とかも忘れて凝視する
視線を逸らしたままゆっくりと、ゆっくりと赤くなるミーシェル様

「……あまり見るな」 

「は、はい!申し訳ありません!!」

突っ込まれてようやく我に返り、私まで真っ赤になりながら手元を見てついあー、とかうー、とかわけのわからないうめきをこぼす

「あの、申し訳ないんですが………月のものです」

「!!!!!!!!!」

恥ずかしい。ミーシェルさまもであろうが激しく恥ずかしい。むしろ今この場にいるのがとってもいたたまれない

「………申し訳ありませんが、今日は少々早いですがお勤めを終わらせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あぁ……」


そして私は真っ赤な顔のほてりを持て余したまま執務室を辞した


『告白翌日』


「おいミーシェル!!お前ロゼッタちゃんに何したんだよ!!今真っ赤で部屋から出て行くのが見えた……って、お前も真っ赤??」

「ミーシェル様……ま、まさかミーシェル様とロゼッタ殿は……」

「兄上達、今は放っておいてください……。俺は今猛烈に穴に埋まりたい」

「え、どこのアナにナニを埋めたいんだよ!!」

「まさか、ミーシェル様…!!」

「ああ、もう!俺は忙しいんですから、用がないなら出てってください!!」



私が出て行ってすぐに、そんな会話が行われたことを私は知らない
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