拝啓、母様
私はどうすればいいでしょうか  


「好きです!俺の子供を五人産んでください!!」

「…………」

バンバンバンと机をたたく、主人の兄
ぽかーんと固まる私の主人
幼少のころより、王宮に勤めていたメイドである母からマナーや礼儀作法のすべてはたたきこまれてきましたが

このような方は、正直初めてです

ですからその対処法もありません


「あの…えっと?」

これが貴族の方なら今まで身分を理由にお断りもできましたが
先ほど主人から、長年の功績をたたえられて私は子爵の身分を与えられました




これはそのわずか5秒後のお話です。


『もーまんたい。え、そんなことないよ』




私は代々王宮に仕える家系でした
父は兵士で、母はメイドで、祖父は学者、祖母は兵士たちの食堂を任されていました  

王宮の最下層に居住部屋をもらい、そこで生活する一族の末裔の私は

幼少のころより他より少しだけ頭がよくて
メイドである母から叩き込まれた礼儀作法のおかげで優秀に見えて

わずか五歳で六歳の第二王子の側付きという、身内の中で一番高いくらいの職をもらいました


とはいえ、一般常識ならばその職は地位ある貴族のご子息の役目でしたから
私はすぐに解任されるものと思いせっかくなので思いっきり普通では学べない勉強を楽しんだら


………なぜかますます気に入られました
………………王子が言うには媚びない、真面目、控えめでなのに早々流されないところが良いと言われましたが
私は平民の分をわきまえていただけなんですけれどね……………



まあ、そんなわけで私は真面目に仕事をこなして生きてきました
王子の仕事のスケジュール管理から必要物品の手配、書類の管理や資料の準備などさまざまなことをこなし

平民で女でしたが、私は側近兼第二王子のメイド頭まで出世しました

勤続15年。20になった誕生日の日
主君である王子と、世継ぎの王子に呼び出されると長年頑張った感謝とこれからに期待して…と、子爵の地位をもらったわけですが………………


「兄さん、まさかこれが目当てでロゼッタに爵位をあげろって言ったのか?」

「だーって苦節16年の片思いだぜ?このバカお前がロゼッタちゃんに目を付ける前から惚れてたんだもん」


両手を握られて
じっと私を見つめる彼は、第一王子の側近で次期伯爵で

たしかにずっと共に仕事をしてきた同僚ではあるが、

正直まったく、そんな対象として見ていなかった
そういう対象として興味もなかった

むしろ、平民の地位では兵士あたりに嫁ぐのが普通とおもっていたから、え、ちょっと待ってくださいよ的な

結婚や恋愛を考える以前のお話だったんですよ。彼のことは

「お願いします。ずっとずっと好きだったんです」
「ストーカーレベルでな」

「地位も年齢も問題ありませんし、あなたはミーシェル様の側近ですからうちの父も文句は言わせません」
「マジ、ずっとミーに妬いてたんだぜ。だからこいつミーには愛想が悪かっただろ?」

「た、玉の輿ですよ!苦労はさせませんし、貴女が望むのなら仕事は続けてもかまいませんし…」
「もうずーっと他の野郎ども蹴散らしてさ、必死も必死、ちょーひっし!!」
「いい加減あなたは黙ってください!!」
「ぐは!!」

どうしたものかと、主人に視線を寄せても彼も困った風に笑っている
そんな中不安そうな彼と王子が喧嘩を初めてしまい

どーしよー……………。

本当に、ちょっと自分の足元が根底から変わってしまったから困る

とりあえず

「あの、セフェス様」

「ははははっははい!」

「わたくし、まだ突然のことでいろいろと頭が混乱していますのでしばらくお返事は待っていただけますか?」

これが精一杯だ
なのに、なぜか第一王子がぼそぼそとセフェス様に何事かを囁く

(そのまま告白はなかったことにされて、ただの同僚が続くパターンだぞ。もっと押しておけよ!)
(そ、それは困る!!)

………まる聞こえなんですが
正直主君とは違い第一王子は気さくで明るい方とは存じておりましたが………なんだか恥ずかしいです。
主君も同様なのか頭を抱え込んでため息をついています。


「じゃ、じゃあ!待ちますから俺の子を産んでください!!」

「……………はい?」

よくわからない理由である意味再度求婚されて
さすがに笑顔が引きつってくると、ついに第一王子が大爆笑しながら笑い崩れた

「あははっはははははっは、お、お前最高!!!!」

どうしよう、もー…


頭を抱え込む私は、このわずか一週間後
本当に婚姻まで追い込まれることは知らなかった




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