白い部屋に白い服の大人
子供の俺とベータは、そんな世界にずっとずっといた



『白い世界α』



「ただいまあっぢいいいいい!!」


ルームに戻るなり
ふわふわの赤茶の髪を揺らし、ふんわりとした笑顔を浮かべて「おかえり」と言ってくれたベータに飛び付く

柔らかな肌は気持ちよく
接触を拒まない、むしろ歓迎するベータは凄く可愛い


キタムラはケリーが可愛いとか言っていたけど、俺はベータ以上の生物なんかいねぇと思う


まぁるい目で見つめられるとなんだか照れるるし
「アルファ」って呼ばれるだけで抱きつきたくなる


物心ついたときから、ずっと一緒に居たベータ
ベータはおれにとって絶対的な特別だった

そりゃあキタムラもある種の特別だったが、一緒にご飯を食べて
一緒に寝て
一緒に笑って
一緒に泣いて

なにをするのもベータと一緒で
俺とベータは同じだと思っていた



「今日は何した?」

「今日はね、ねずみさんの子供を元気にしてあげたんだ」


大好きな、大好きなベータ

優しくて可愛くて大好きで怖がりで


そう、ベータは怖がりだから






ガラスの向こうで、肉を溶かし貪る化物
俺の親指よりも太い牙がたくさん生えた口で、血を撒き散らしながら


人間、を喰う化物


「な、なんだよっ!!コレ!!」

「……これは、お前たちの父親だ」


キタムラに見させられた化物。こんなものが父親だなんて知ったら怖がりなベータは悲しむ


だから、


「俺はこいつを殺して、お前たち二人をここから連れ出して自由にしてやりたいと思っている。協力してくれないか、アルファ」


ベータにこれは見せたくないし、知られたくない
彼女に似合うのは笑顔だけだから


「わかった」


俺はキタムラと一緒にベータを連れ出す決意をした

彼女のために逃げるはずだった
だから、彼女が逃げることを拒み引き裂かれたとき



離ればなれになったとき



俺は気が狂いそうになった


キタムラが所属する一派が『実験体二号も連れ出す』と言ってくれなかったら、俺はきっと全てを壊したと思う







彼女があの化物のことを知ってしまったのは、悔しかったが
それでも犠牲者が『焼却処分された』と素直に信じてくれてるのはまだ良かった


人を食らう化物の子供だなんて知ったら、きっと優しいベータは傷つくから。余計な情報は知らなくて良い


「はぁ、また起ちそ…」

SEXの匂いがむんむんと立ち込める部屋の中で、裸で眠る彼女の艶やかな髪を優しく撫でる

換気はする気は無い。この匂いすらも彼女の一つだから逃したくない


やっと取り戻した、唯一の存在

昔とは違い表情は乏しくなったが、それでもベータは綺麗で可愛かった
一目でわかった。そして一目で、ただでさえ膨らんでいた渇望が爆発した


欲しくて愛しくて大好きで俺の全てで


俺たちはお互いだけがいれば良いのに


“ガンマ”とか言う三体目を選ぼうとした彼女に殺意が沸き、つい酷いことをした


「……ごめんな、ベータ」


白い首を撫でてもそこには跡すら無い
けれど俺は確かに彼女を痛め付けた。とっさの激情にかられたとは言え、本当に酷いことをした


ベータは、俺が脅したあと泣きながら眠りについた
ごめん。本当にごめん。でも俺は約束を守る気はさらさら無いんだ



汚れたシャツに袖を通して服を着て
起こさないように静かに部屋を出て、しっかりと部屋に施錠をする

こんなことをしなくても優しいベータは逃げたりしないだろうが、うちの奴等が復讐心の八つ当たりの矛先をベータに変えないとも限らない

昨日のあいつは、関係ないのにベータを逆恨みしたっぽかったし


ごめん

心でそう思いながら


愛する彼女を守るために
愛する彼女を手放さないために



俺たちを引き裂く可能性をたたき潰して殺すために




俺はまた血と泥沼にまみれた道を歩き出した。






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