白い部屋に白い服の大人
子供の私とアルファは、そんな世界にずっとずっといた




「ベータ、疲れたー」

「お疲れさまアルファ」


ガラス越しにみんなが見守るこの部屋に戻るなり、汗だくのアルファは私に抱きついてきた

ちょっと汗臭い彼をぎゅって抱き返すとそのまま白いベッドに私たちは倒れ込む



「今日は三十キロも走ったんだぜ」

「本当?凄いなぁ……私は一キロでへとへとになっちゃうからなぁ」

「ベータは体力無いからなぁ。ベータは今日は何した?」

「えっとね、採血とうさぎさんのお怪我を治したよ」

「注射痛くねぇ?あれ俺は駄目だ」


横向きに転がりあって、額を合わせて今日の出来事を報告しあう
私たちは気がつけばこの部屋に居て、一緒に居て、一緒に色々な勉強をしていた


『こらアルファ!!お前部屋に戻ったら風呂に入れっつったろ!!』

「げ、キタムラ」


突然スピーカーから響いた怒声にガラスを見れば、部屋の外では優しくて怖いキタムラが怒ってて

それを見たアルファはぴゅーっと急いでお風呂場に走っていった


『まったく……しかもあいつタオルと着替え持ってってねーじゃねぇか!!悪い、ベータ頼めるか?』

「うん、良いよ」

『同じちびっこでも、ベータはしっかりものだなぁ』

怒りながらも優しいキタムラに軽く手を降ると、私は日用品の棚からタオルとアルファの服を持ってお風呂場の前においた




私たちはずっとこの世界にいた
私たちは、世界はここにしか無いと思っていた
キタムラ以外はあまりお喋りしてくれない。むしろ私たちは互い以外の触れるのも作業時以外は禁止されていた
一度先を行く大人に着いていけずついその服を掴んだら悲鳴とともに手をぶたれたから、たぶんそうなんだろう



与えられる知識は計算や生物学について

これがモルモット、これがうさぎさんと知識が入ってもそれもこの白い世界に生きているものだと当たり前のように思っていた



だから初めてソレを見たときも
私には『あぁこう言う生き物もいるんだ』と思った





『いや゛ああ゛、ああ゛ぁっ!!やぁああ!!』

こっそり覗いた研究室の、大人達の向こうのガラスの更に向こう
そこには裸の女の人と、





見たこともない不思議な生き物がいた
人の倍はある大きさに、体にはお魚みたいな鱗がある

目みたいなものはぱっと見数えきれないくらい全身にあって細長いひもみたいのを出して女の人を掴まえて、なんだかぐちゃぐちゃしてる

ソレは、なんというか、凄く───………



「……あぁ、今回もまたダメか。あれでは孕む前に死ぬな」

「そっすねぇ。ったく、あの化物も人の気持も知らずに好き放題犯しやがって」

「そうだな、1000人中2人しか妊娠が成功しないのは犠牲がでかすぎるな。その成功母体も、化物のガキを産むなり死んでしまったし」


「「まったく、恐ろしい化物だよ」」


そう、恐かった。何が怖いかなんか具体的にはわからない
ただ恐い。女の人をいじめるその生き物が、凄く恐かった


「化物の子供の方はどうだ」

子供……?
私とアルファは、この世界で二人っきりの子供で

嫌な予感がひしひしとする


「恐ろしいくらいの成果をあげてますよー。1000人の犠牲の価値あるってか、アルファの方はあれはスポーツマンの倍を軽く越えるの運動能力がありますねぇ」


やめて、やめて、お願いだからやめて
お勉強は好きだけど、知りたくない



「でも何よりの成果はベータっすね」




わ、たし
わたしと、アルファは、
あの恐い生き物の、子供なの……??


「再生能力も高く、さらにヒーリングの能力も確認されてるのに……ベータの血液を投与しただけで癌細胞を植え付けたマウスも完全に完治したみたいですよ。老衰しかけのマウスに投与したら細胞が活性化して若いマウスになったって報告もありますね」


二日に一度は抜かれる血液
それにはそんな目的があったの?


「……これからもこんな化物に、人間の発展のために人間を差し出さないといけないってことか」

「もしベータが万能薬になりえるなら、犠牲の価値はありすぎますからねぇ。とは言え、いくら甥っ子とは言えあいつらを可愛がるキタムラの趣味はわかりませんが」

「同意だな。こんな化物の子供になんかプライベートでは関わりたく無いな」



よく分からない会話になり始めると
私はそっとその場を離れた



私とアルファが、あんな化物の子供
突きつけられた現実は刃となって心を切り裂く
何よりも恐いのは


私も、いつか
あんな恐い姿になるの……?



嫌だ嫌だ嫌だ恐い恐い恐い




シュッ

「あ、おかえり!!って、ベータどうした」


いつもの、ガラス張りの向こうの生活空間に入るなり
心からほっとしてアルファに思いっきりだきつく

今は監視の人がいなくてよかった。私もあんな化物って思われてるなんてまだ実感したくない

「どした?なんかやなこと、あったのか?」

頭を撫でてくれるアルファは凄く優しくて大好きで
大好きだから、
アルファはこんなこと、知らなくて良い


「ううん、なんでもないの。ただちょっと離れて寂しかっただけ」

「俺だって寂しかったぞベータ!!」


だから笑顔を張り付けて
私と“同じ”アルファに甘える

一人じゃなくてよかった。私にはアルファがいてくれてよかった。



でも




いつ化物に変わるのか分からない私は
その日から呼び出されない限り、ガラスの向こうのこの空間に引きこもることにした





化物だから、引きこもることに決めたから






響く爆音
揺れる白い世界は破壊され、赤く燃え上がる

そんな中私に手をさしのべるのは、大好きなアルファ


「ベータ!!キタムラが逃がしてくれるから、こんなところから逃げるぞ!!ほら、早く!!」


彼は、世界の外へ行くことを選択した
………けれど私は、外で化物になったらと思うと



「……ごめん、私は行けない」

「ベータ!?」




世界の中に残ることを選んだ
キタムラに抱えられながら、必死に私を呼び叫ぶアルファの姿は今でも忘れられない






壊れた世界は、すぐにまた再構築されて新しい白い世界が出来た
変わらない世界、変わらない日常

違うのは、君がいないだけ



けれど私はアルファの手を取らなかったことも後悔してないし、世界の外を選んだアルファを憎んでもない







「ベータ博士、実験の報告があがりました」

「そこに置いておいてもらえますか?」


そして子供は大人になり
知識をたくさん吸収した私は、ガラスの中にいたまま被験体でありながら研究者になった

臆病な私の、大切な白い世界は私の唯一安らげる世界だった




『白い世界』



「ベータ博士!!大変です、侵入者です!!」

「こんな施設に…?」


そして私の世界を変えようと、彼はまた現れた





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