体が弱くて良かった、なんて思っちゃうんだ



コホコホ

「亮子、平気か?」

「うん、大丈夫だよ」



軽く咳をするだけで、彼は友達の輪からさっ離れてこちらに来てくれる。そして男らしい骨ばった手でおでこをさわったり、ブレザーを羽織らせたりくれる

それだけで、幼なじみって役得だなぁと思う


顔が良くてモテる彼は、子供のころ何度か危篤状態にまで行く私を見たせいか人一倍私の体調には敏感だ



「亮子、平気ぃ?」

「うん大丈夫だよ。でももうちょい悪化したらヤバイから今日はお昼で帰るー」


高校生活をエンジョイしたくて無理をした結果既に二回も救急車を呼んだ私は回りから腫れ物扱いを受けてるけど
元気に体育なんか出来ないけど

────普通の子に出来ることは、出来ないけど




それでも、私は私なりにこの壊れた体で生きてきたからたくさんのことを知っている。少なくともこのクラスの子達が知らないことを


長い闘病生活を受けても、負けてしまった人

死んだ人も大切な人と生きられなくて悲しいと思うけど、そんなの残された人だって同じだ

毎日薬の副作用で吐き気や頭痛と戦いながら懸命に生きる人

それでも生きる希望を見失わない、力強い人



そんな人たちに比べたら、私は生きてるしそこまで毎日苦しいわけじゃ無いしとても幸せだ

体が弱い程度で良かったと思うんだ




くしゅん、とくしゃみをすると何だか体に悪寒が走ってちょっとだけヤバく感じる


「ほら席付けー」

「……………先生、」

お昼まであと一時間だけ頑張りたかったけど
無理はよくないから、渋々私は体調不良を訴えた





────………


「べっつに送ってくれなくても一人で帰れるのにーぃ」

「とか言いながら道端でぶっ倒れそうなんだよ、亮子は」


こいつを助けた回数は、最早数知れない
公園で遊んでいて具合を崩した時は大人に救急車を呼んでもらい
具合が悪くても無茶をするのを止めて
貧血をおこせば保健室まで運んだ


ひょろくて、白くて、いろいろと制限された生活なのに
それでも亮子は毎日を楽しそうに笑う
そんな亮子に惹かれもするが


なんだかんだ言ってたくさんこいつを助けたせいで



今の亮子が生きているのは、俺のおかげなんじゃないか…それなら亮子の命は俺のもの…なんて馬鹿なことを考える

馬鹿げた執着。馬鹿げた独占欲

亮子は誰にも渡さないし……死なせない。



「なぁ亮子」

「んー?」

「俺がプロポーズして、俺の子供産んで、その孫が産まれるまでちゃんと生きろよ」

「んー?そんな未来設計は無いから、約束したら私は不死にならないといけない感じ?」

本気にしていないのか、けろっと笑う彼女の頭をぽんぽんと叩く


「俺はこの未来設計、絶対に叶えてやるけどな」

「は…?」


そして真っ赤になって固まった亮子の唇をさっと奪った


絶対に絶対に死なさないから


そんな誓いとともに、俺は彼女を抱き締めた






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