明るくてにぎやかで表情がくるくる変わって
「まさお!!愛してるから数学写させて!!」
「安い愛はいらねぇよ。それに俺は正士だ!!」
男女問わず人気があって、常に人の中心にいて
「えみ!!まさおが反抗期なんだけど?」
「え、通常営業じゃない?」
「いつもは『愛してるよハニー』って返してくれるもん」
「「「無い無い」」」
教師にも先輩後輩にも父兄にすら可愛がられる彼女
俺とは真逆だと思う
「ひどっ!!愛はどこに行ったの!!」
口下手で、やっと出せる言葉は無意識にキツくなる。しかも表情が変わらないタチでタッパもあるから威圧感もでかいらしい
顔だけは親に感謝しても良いくらいにはよかったけど
「あははは、はいはい愛してるよー」
「ごろにゃーっん♪」
それだけじゃ補えないくらい俺は難あり男だった
そのせいか、クラスはおろか学校全体に友達がいる彼女との接点は無かった…………今までは
ザーザーと雨が酷く降るなか
傘立ての前でため息をつく
俺の傘が、ねぇ
とりやがったのはどこのどいつだと、舌打ちをしてから携帯とウォークマンを鞄の奥にしまって昇降口の際からやっぱりどしゃぶりの暗い空を見上げる
真面目に日直の仕事なんざするんじゃ無かった
雨は酷いし傘はパクられるしついて無い
「あれ、傘無いの?」
今から飛び出そうと言うとき、一日中聞いてる明るい声が聞こえた
振り向けばそこには想像通り………もはやクラスのマスコット的存在の皆藤が居て
「パクられた」
端的に言い放てば皆藤はぱちくりと無駄にでかい目を瞬かせてから
にぃぃぃんまり、と
明らかに悪巧みをした笑みを浮かべた
…………こいつ、悪戯とか悪ふざけ大好きなんだよな。高2にもなってガキくさいがそこが回りにはウケてるらしい
「ここにあるは楓様の大きな傘でございます。………ふっふっふ、駅まで入れて欲しくば今日の数学の宿題明日写させてちょっ♪」
「自分でやれ」
皆藤と会話をするのは始めての筈だが
まるで旧知の仲ばりに突っ込んでくるアホを容赦無く切り捨てると皆藤は比喩では無く本当にぶーぶー言いながら慌てて靴に履き替えて突っ込んできた
「じゃあジュース一本でー」
「またな」
「ぶーぶー冷たいなぁ。仕方がないから優しい楓様がいれてあげよう」
ばっと大きなサイズの傘を開いて
俺を入れてくれるのは感謝したい。だがしかし規格外のサイズの俺からしたら屈まないと傘に入れん
だから無言で傘を奪い持ってやると一瞬びっくりした顔はぱああああっと笑顔に変わった
本当にコロコロ変わるな
「ありがとう!!三枝愛してる」
「傘から追い出すぞ」
「この傘あたしのぉぉぉぉ」
ウザイくらいガキ臭いのに
確かに何故か面白いし、 皆藤ならそれらも許せる気がした
「もー!!さえ君は喋るとSだなぁ!!」
「ちゃんと呼べ」
「だがしかしあたしはどMだから相性は最高だね!!」
「受付ねぇよ」
考えなしにキツイ言葉をポンポン返しても、皆藤はころころ笑ったり拗ねたりしながら甘えるように自然にひっついて、効かないパンチをしてきて
始めて話した彼女との会話を楽しみながら土砂降りの中駅まで歩く
すると突然皆藤が俺のブレザーの裾を掴んで見上げてきた。しかも真顔で
「ねぇ、三枝君」
いままでさえ君とかさえちゃんとか言ってきてたのに急に普通に呼ばれて面食らった
そんな俺を皆藤は黒目を大きく開いてじいっと見つめる
「私うざくない?こうして話すの迷惑じゃない?私、その辺の空気読めないからちゃんときっちり教えてほしい」
ウザイも何も今更だろう
けれどそのうざさも面白くなっているから構わないと思う
「大丈夫」
こつんと、傘を持つ手で皆藤の頭を軽く殴ると
皆藤ははっと息を飲むくらい綺麗で嬉しくて嬉しくて仕方がないといった風に笑った
…………不覚にもその笑顔にはかなりヤラレタ
「ちゃんと言ってやる」
「もうマジでさえちょん大好きだああああ」
「うっさい」
『長い片想いの始まり』
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