「お、おいっ!!どうしたんだよ……」

「…………」


血塗れの子犬の亡骸を持って現れた俺を
勇者はとりあえず家の中に入れてくれた


そして、二人で庭に小さな魔狼の墓をたてて






服と風呂を借りてさっぱりとし
暖かな珈琲を入れてもらった



その間にも頭の中に浮かぶのは、アーリィの残酷な不思議そうな表情で





彼女は、感情が無いから
仕事ならばなんでもするんだ
あんないたいけな子犬さえも迷わず殺すし





きっと、もし魔族と人間が敵対していれば
何の迷いも無く人間すらも殺すのは容易に想像が着いた




「……………大丈夫か」

「……………ちょっと無理だ」




きっと俺のことも、命令されたらあの子犬みたいに迷わず殺すんだろう


アーリィに背を向けた瞬間は無力な子犬に迷わず手をかけた怒りに満ちていた筈なのに



時がたって落ち着けば





俺もあの子犬と同じにしか見えなくて、悲しくなってきた

彼女が僅かに感情を見せるのは、家族と大臣のみだ



俺は彼女の極僅かな感情に触れてもいない…………その他大勢の生き物に含まれる存在だ





それが、悲しい
悲しい、辛い、悔しい







そう感じるほどに
気がつけば無表情で、何の感情を見せない彼女のことが好きになっていたんだ────


笑って欲しい
泣いて欲しい
情を理解して欲しい
────愛情を向けられたい






もう色んな感情に襲われて、カッとなって婚約解消なんかを言ったことを後悔し始めたとき










どっがあああああん!!!!!!







「うわっ、な、なんなんだよ!!!」


勇者んちのドアが、ぶっ飛んだ
思わず勇者と座っていた椅子から揃って立ち上がると爆煙の中から



「おい勇者!!!!ちょっと今すぐ城に来てくれ!!」

「ガゼル?どうしたんだよ」


ガゼルの視界には俺が入っていなかった
それほど切羽詰まった表情の彼に、一体なにがあったのかと慌てたが







俺はガゼルの言葉に凍りついた








「アーリィが瀕死で帰って来たんだ!!骨折どころか何ヵ所も肉を食い破られてて、早くしないと失血も酷いし死んじまう!!!!お前白魔法得意なんだろ!!今父さんが必死に頑張ってるから頼む!!」












ガゼルの魔法で勇者が急いで旅立った中









俺は呆然と立ち尽くした









俺は、何をした?





『少し過酷なものなので……』



そうだ。今回の仕事は、いつもより辛いって知っていた筈だ
それなのに、



『……私たちに対しては無くても、被害にあった無力な村人たちには敵意を剥くかもしれません。なにより私たちの仕事は魔狼の討伐ですよ?』




たとえ情が無くとも彼女が正しいのだってわかっていたのに、






アーリィが、討伐対象である魔狼の子犬に情けをかけないのに腹を立てて


怒鳴り、あたり、さらに














仕事を放棄して、彼女を置いてきた。








彼女が魔法を使う相手が苦手だと知っていながら
魔狼は魔法を使うと知っていながら
彼女が、仕事を放棄するような性格じゃないと知っていながら…………






多数の魔狼の群れの中に
俺はカッとなって、
アーリィをただ一人置いてきたんだ








「あ、あ……ああああああああ!!!!」






どうしようも無い後悔から、悲鳴をあげたって何も変わらない
泣いたって、髪をぐしゃぐしゃにかきむしったって時間は戻らない






感情的な俺の行動は正しくない。
頭のどこかでそんなことを思いながらも




俺はさらにしばらくの間後悔をしながら泣き叫び続けた




『正しいのは、』




死なないでくれ。どうか、死なないでくれ






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