「あ、ありがとうございます」
落としかけた本を受け取り
ぺこりと頭を下げると、カイトは気味悪そうに顔を歪めました
何故でしょう
考えても皆目検討もつきません
とりあえずそれは置いておいて、たくさんある蔵書から料理の本を探す。
数千年の間、数々の屋敷の住人の趣味で集められた書物は数えきれないほどあって
その中から肉料理とケーキの本を軽く読み流して中を確認していると、不意に隣から声をかけられた
「なぁ…えっと…ソラ?」
「はい?」
「なにも、昔のこと覚えてねぇの」
本から彼に視線を向けて目を細めると、真剣な眼差しを返された
誤魔化すことは、無理そうですね
「断片的には、あります。昔から貴方が側にいたとか。けれど私や貴方がどうしてうた、とかどう思っていたとかはありません。記憶にあるのは、ただいた。それだけなんです」
「そっか……思い出したくないのか?」
どこかすがりつくような彼に困った笑みしか返せない
昔の記憶なんて――――
「私には、リク様がいればそれだけで良いんです」
世界の中心は彼で
彼に愛されるならなんでもする
彼にまつわるものなら何でも大切にする
彼が喜ぶならどんな努力だっていとわない
彼の絡まないことがらなど、なんの興味もわかない
「……まぁお前が幸せなら良いけどな」
「今は、間違えなく幸福ですよ」
にこりと微笑むと、本をとりあげられた
きょとりと首を傾げるとぽんぽんと頭を撫でられる
「ほら、部屋まで運んでやるから。どうせならリクの側で読めば?」
「有り難うございます」
そのまま二人ならんで歩くと不思議な錯覚に落ちいった
昔も、カイトとこんな風に―――
『ばーかこ―仕事―――鬼が!!』
『―いから、早――類を返しな――!!』
ふわり、と
脳裏に浮かんだ声
断片ではありましたが、その声はとても感情が露で……
「ん?どうした?」
「いえ、なんでもないです」
私が望むのはリク様だけだけど
こんな私にも、友達がまだいたんですね。
過去なんていらないけれど
また彼と感情的にはなせるような関係に、少しだけなりたいな
そんなことを思った春先の出来事
〜12/23拍手お礼
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