魔族は家族の繋がりなんて殆ど無い
故に子供の期間も極めて短く、また捨てられても生きて行けるように親の強く残った記憶を受け継いで産まれてくることが多い
『被害者であり副産物』
俺の受け継いだ記憶は、両親のここ数年のものばかりだ
父さんはグロデスクな見た目から魔族すらあまりいない辺境の地に引きこもっていたからか
母さんに出逢ってからの記憶と多少の勉学の知識しか無い
つまりそれだけ父さんにとって母さんは大切な女性なんだ
逆に母さんの記憶は、多期にわたり在るものの
幸せだった幼少の記憶も、魔王を倒すまでの記憶も、うすらぼんやりとかすれ
俺には、母さんが受けたむごい行為の記憶が生々しく引き継がれた
王の隣で怯えた素振りでこちらを見る、上部だけは綺麗な中身はクソな女
長時間ソイツを見るとつい殺したくなって困った。和平の席でそんなことをしたら、問題すぎる
あの行為は、母さんが受けたもので
復讐する権利も断罪する権利も、母さんにあるのはわかってはいたが
それでもソノ記憶を引き継いだ俺としては、俺の心を蝕み大好きな母を苦しめたソイツに復讐したくて仕方がない
「と、とりあえず話の続きはまた明日にしてもらってもよろしいか。無論部屋は用意させて貰うし身の安全も保証しよう」
さっき父さんを暗殺しようとしたくせに
本当に、薄っぺらな笑みでも張り付けるのはなかなか大変だった
「どうも。あ、陛下達は同じ部屋で良いんで部屋は二つよろしくお願いします」
「母さん、大丈夫?」
「うん大丈夫……ありがとうね、色々と交渉してくれて」
「いいよー。俺、父さんも母さんも大好きだし」
俺は魔族だけどこの両親に育てられたおかげで二人が大好きだ
それこそ父がいなかったら、母さんを俺の女にしたいくらいに
「それにこういうのは二人とも苦手だろ?支えてやるから、二人はでーんと構えてろよー」
心からの自然の笑顔を浮かべると、白くて細い手とごつくてするどい爪の手に頭を撫でられた
本当に両親は大好きで
この二人と一緒にいると優しい気持ちになれたのに
パタン、と二人の部屋から出ると俺の心は一瞬で冷え込んだ
殺したくて、殺したくて、仕方がない憎いあの女
『俺』がやると問題になり母さんが望んだ平和への障害になるけど
『人間』が、アイツに害をなす分には問題無いよな?
本当は魔力とか適当な人質でもとってヤろうかと思ったが
「都合が良いもんが居て本当に助かるよな」
あの眼。あの眼なら教えるだけですむだろう
さーて、
魔王を倒してめでたしめでたしのその後に
愛する男性が出来てめでたしめでたしのその後に
物語は俺に都合良く進むか
それともあの女に都合良く進むか
『第三幕の、始まりかな?』
本当に俺の顔は母さんにそっくりなのにここまで魔族らしく争いや混乱を望むなんて笑えるよな
帰