ふわりと香った彼の方の香りに
くしゃりと顔を歪めてから、ひょいっと屋根の上に登った



今日は昼から申の方の祝言で、その準備で朝から十二支が集まる

一番に神様の屋敷に来た私は、二番手の彼を怯えさせぬように高いところへ移動した


本当ならば、彼の方に近づきたいけれど

怯えさせては元も子もない。彼の方に拒絶されるくらいなら距離を置いた方が余程ましだ────




近づく匂い
気配を消してこっそりと屋根の上から彼を伺い見る


卯の方は両手いっぱいの花を持っていて、それがまた凄く様になっていてドキドキと胸が高鳴った

直ぐに子の君や司馬どのも集まりだして段々場が賑やかになる。けれど肉食仲間はまだ来ない
彼等もまた草食の方々を怯えさせぬように気を使っているんだ




にこやかに友人と話す卯の方を眺めていると


不意にバサリと大きな紅い鳥が隣に舞い降りた


『なーんで利虎はこんなとこにいるのよ』

「高いところが好きですから」

『何馬鹿なこと言ってるのよ』


派手な鳥歌殿が隣に来たせいで、私の存在はすぐに他の方々にも知られる
けれど、



確かに彼の存在を感じながらも、私はひたすら鳥歌殿と話をしていた──────













ぱちりと目が覚めると
私は來兎様の腕枕で寝ていた

整った優しげな顔立ちの來兎様。私は、ずっとずっと彼が好きだった
大好きで大好きで仕方がなかったんだ


もぞもぞと、ぴったり寄り添って來兎様の腕の中に綺麗に収まる


背が小さいのも童顔なのも、人型は私のコンプレックスでしか無かったけれど
こうして彼の腕の中に収まるのならばそれも悪く無いと思う


あまりの幸せにゴロゴロと喉を鳴らしながら


私は身に余る幸福に酔いしれた




ずっとね
怖がられると思っていたから
私からは來兎様に近づくこともできなかったの


だから來兎が来てくれて
危険なのに虎の巣窟に来てくれて

それだけでもどんなに嬉しかったか
目を見て話すことが出来るだけでどんなに嬉しかったか






なのに告白までされて



嬉しくて、嬉しくて、



彼の嫁になったいまでもまるで夢を見ているような幸せな気分なの



願わくばこの幸せが
ずっと、ずっと、続きますように──────



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